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無能王子と愉快な仲間たち
官能リレー小説 - ファンタジー系

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無能王子と愉快な仲間たち 4

「はあ、そうですが……」
「おほおおおお!!!!やはりそうでしたか!!先生の作品は全て拝読させていただいております!!まさかこんな所でお会い出来るだなんて光栄の極み!!ぜひ我が城においでいただきたい!!」
「……」
興奮して顔を真っ赤にして少年のように瞳を輝かせながらまくし立てるアーサーにヘンジロットは茫然とするしか無かった。


客間に通されたヘンジロットは未だに信じられなかった。よもや自分が書いた書物のお陰でここまですんなり侵入できるとは……。彼の主からは“例え城に侵入しても騒ぎを起すな”と言われている。帝国は北方に位置しているだけに農業にあまり適さない。穀物などの食料品は南からの輸入に頼っている。その最大の取引相手国であるメインランドと事を構えれば食料が入って来なくなり、たちまち帝国全土が飢餓状態に陥るだろう。

マチルダは言った。
「先生に折り入って話があります。殿下がこのまま物語に現(うつつ)を抜かしていれば、いずれ帝国が仕掛けて来ます。先生の物語の様に殿下を人として目覚めさせる事は出来ないでしょうか?」
城の主席書記官がここまで言うという事は事態は相当に深刻という事だ。
「はあ…そうですねぇ…」
フェリトとしても何とも言えなかった。まさかスパイとして潜入した先で、そんな相談を受けるなんて思ってもみなかった…。
そこへ、扉が勢い良く開く。部屋に入って来たのは渦中の人物、アーサーだった。
「先生!先生に是非とも見ていただきたい物があるのです!」
「は…はい!何でしょう…?」
アーサーはフェリトに数十枚はあろうかという紙束を突き出した。
「僕が書いた小説『美少女剣士VS触手モンスター〜魅惑のエロエロ大決戦〜』です!先生のご感想をお聞かせいただきたい!!」
「政務をサボってそんな物を書いてたんですか!!?」
マチルダがキレたがアーサーは全く気にしない。
フェリトは手に取って2〜3ページ読んでみた。
(こ…これは!!…………つまらねぇ…)
それは“その辺の素人を連れて来た方が、まだまともな物を書くかも知れない”というレベルの出来だった。
「ど…どうですか!?」
「はあ…何と言うか……悪くは…ない…かも知れない…です」
フェリトはプロの小説家として色々と言ってやりたかったが、ここで本当の事を言ってアーサーを怒らせたら、せっかく潜入できた城から追い出されてしまうと思い、言えなかった。彼はエロ小説家としての自己よりもスパイとしての自己を優先させたのであった(当たり前か…)。
「ほ…本当ですか先生!!?」
一方、褒められたと思い込んだアーサーは大喜び。
「このアーサー・ド・ローライト、我が人生において今日ほど嬉しい日はありません!!実はもう一作、いま執筆中の作品があるんです!待っていてください!もう2〜3日いただければ必ず完成させて先生のお目にかけられると思います!それまで我が城にご逗留ください!約束ですよ〜!」
彼はテンションMAX状態で一方的にまくし立てて帰って行った。
「……」
「……」
アーサーの去った部屋は嵐が通り過ぎたような静けさだった。

やがて、先に我に返ったマチルダがフェリトを問い詰めた。
「先生!なぜ火に油を注ぐような事を言ったのですか!?」
「も…申し訳ありません!やはり諜報活動が優先…」
「はぁ…?」
「あ!いや、その…アーサー王子の小説にかける熱意に押し切られて…つい…」
「ハァ…まあ良いです。とにかく、今ご覧になった通りでして…」
マチルダは不出来な息子を嘆く苦労性の母親のように眉間にシワを寄せて言った。
「はあ、心中お察しいたします…」
「だったら何であんな事言うのよ!!?」
「は…はい!!申し訳ありません!!」
「…ハッ!し…失礼しました。私とした事が、つい取り乱しました…」
「いえ、マチルダさん。このフェリト・ヘンジロット、お力になれる事があれば喜んで協力させていただきます!」
そう言うとフェリトはマチルダの手を握った。そして思った。
(とりあえずこの事実は本国に報告だな…)


一方、アーサーは…
「フハハハハハハッ!!!!ついにプロの作家すら認めた!やはり僕には才能があるのだ!いずれ全国の書店に僕の著作が並ぶ日も、そう遠くはないだろう!!」
意気揚々と自室に戻って来た彼は、さっそく机に向かって二作目の執筆に取りかかろうとしていた。
「なぁ!お前もそう思うだろう、ルシア!?」
「はあ…」
アーサーに言われて紅茶を持って来たルシアは、フェリトに褒められたというアーサーの原稿を見て言った。
「でもこれ、ぜんぜん面白くないんですけど…」
「な…何だと…!?」
ルシアの素直すぎる感想に絶句するアーサー…と思いきや、彼は肩をすくめて「フゥ…」と溜め息を吐いて言った。
「まったく…これだから教養の無い者は困る。僕の作品の良さが理解できないとは…」
「いや、本当に面白くないですよ。…たぶんヘンジロット先生はアーサー様を傷付けたくなくて嘘を言ったんじゃないですかねぇ?」
「こ…こ…この無礼者!!未来の大作家に向かって何という口の聞き方だ!?不愉快だ!!出ていけ!!今すぐ出ていけぇ!!!」

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