群れなして蠢く美しき屍 9
そんな妄想が頭をよぎり、誠はあわてて頭を振る。
そんなことがあるはずない、と。
もし自分にそんな異常が起きていれば、学校を休んでいる間に何かわかっているはずなのだから。
(とにかく今はここを脱出しないと・・・!)
誠は思考を切り替えることで妄想を振り払うと。
ぐったりと横たわる弥生を起こしにかかった。
「先生、起きてください。先生!」
「ん・・・あ・・・?」
誠にゆすられ、目を開けた弥生がまぶたをこすりながら身体を起こす。
その様子はとても無防備で。
とても誠を逆レ○プして童貞を奪った人物とは、思えなかった。
「なぁにぃ、河原くぅん・・・?どうかしたぉ・・・?」
「な、何言ってるんですかっ!?
Hしたらオレの言うこと聞いてもらうって約束だったでしょうっ!?」
寝ボケ気味の弥生に、誠は怒ったように大声を上げた。
別に怒っているわけではない。
年上の彼女のかわいいしぐさに、ドキッとしてしまったことへの照れ隠しだ。
幸い、まだ頭が動いていない弥生は、それに気づいていないようだったが。
目覚めたばかりの弥生は、まるで子猫のように愛らしい。
学校でもアイドル教師としてもてはやされていた彼女の、こんなところを見られる日が来るなんて、いったい誰が予想できただろうか。
誠は内心のドキドキを隠すように言葉を続けた。
「これから先生には車を出してほしいんです。
この学校も、町も・・・もしかしたら世界中がおかしくなってるかもしれないんです。
今のうちに少しでも情報を集めて、安全なところを確保しないと。
そのためには、どうしても先生の力が必要なんです」
「ん〜・・・いいよぉ?河原くんのためなら、先生、何でもしてあげる」
その言葉と笑顔に、誠は思わず微笑んだ。
もちろん脱出の手はずが整ったことはうれしい。
しかし自分のためにとまで言われて、ときめかない男がいるだろうか?
いや、いない。いるはずがない!(断言)
誠は学校でも評判の美人教師を手に入れたような錯覚を覚えていた。
しかしそれも弥生が次の一言を言うまでのことだった。
「あ・・・でも。先生、今はカギ持ってないから一度職員室に行かなきゃだね」
ピシッ。
その瞬間、誠は空気が凍り、足元で何かが崩れていく音を確かに聞いた。
そうだ。確かに弥生はここに来るまでに素っ裸になっていた。
そんな彼女が、車のキーなど持っているはずなどないではないか!
ということは、これから誠たちは再び不純異性交遊(笑)の巣窟となった校舎に戻らなければならない。
それも一度職員室に立ち寄ってカギを探すという、高難易度のミッションのおまけつきで。
ここに逃げてくるだけでも大変だったのに、このミッションを無傷でこなせるだろうか?