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刄者と鬼
官能リレー小説 - ファンタジー系

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刄者と鬼 26

 芹那は少しだけ恥ずかしそうにしながら籐弥から顔を逸らして応える。

「そうですか?なら別に名前で読んでくれればいいじゃないですか、貴女は僕の名前を知らない訳でもないですし」
「ふん…じゃあそうするよ。それから君、いや籐弥も俺の事を貴女とか呼ばずに好きな様に言えばいいから…籐弥の勝手だけどな」
「じゃあ、おばさ…
「おい!それを最後まで言ったらこの世から跡形もなく消し去ってやるぞ!」
「すいませんすいません。嘘です、冗談です、ちょっとだけふざけただけですから」

 珍しくふざけた事を口にして和ませるつもりであったのかもしれないが、流石に世間一般的にはうら若き乙女とも呼ばれれる様な年頃の女性に対しては、笑えないどころか殺気立たせるだけなこと位は普段の籐弥になら簡単に分かるはずなのに、何故か今回はその様な感覚がまるっきり抜けていた様で有る。
 そして、その報いとは言わんばかりに芹那に首根っこを掴まれ殺意にも似た視線を浴びせられていた。

「…流石に失礼にもほどかあるだろ、全く…刄を振り回してる時とは別の意味で可愛らしくないな、籐弥は」
「すいません…本気でそうだなんて思ってませんから。ただなんとなくふざけてみようかなぁって…」
「そういう事はふざけなくていい。おかしな所はそれなりに子供染みてるくせに、肝心な所は全く子供らしくない…ますますよく解らなくなるな、籐弥が何を考えて生きてきているかが」
「僕が何を考えて日々を過ごしているかなんて、誰も知らなくても困らないですし、知ったところで世界が変わるわけでも有りませんから…」
「まただ。そういうおかしな理屈を並べたりするから可愛げがないって言いたいんだよ…普通にしてれば只の子供だし、興味なんて湧かなかったし、気になりもしなかった筈なのに…」
 
 後の方の言葉は呟いた自分にしか聞こえない様な大きさで口にしたにもかかわらず、籐弥が自分の顔を見ていることに気が付いた芹那は、恥ずかしさのあまり早足で歩いて行こうとしはじめている。

「あ、ちょっと待ってくださいよ芹那さん。そんなに急いでどうしたんですか?」
「別に急いでなんかない」
「僕、気になるんですよ、芹那さんの事で少し」
「えっ?」

 籐弥の言葉に、芹那は早足になっていた歩みを止めキツイ視線を向けた。咄嗟に、またからかわれているのだと思い込んでいる様である。
 しかし籐弥は、芹那が何故自分にキツイ視線を向けているのかは理解は出来ていない。当たり前である、当の本人はただ純粋に聞いてみたいことがあったから、先程の言葉を口にしただけだった。
 そんな籐弥の姿を目にした芹那は、自分の勘違いに気がつくと今度は取り繕う様な不自然な笑顔を浮かべる。

「何が気になるんだ?答えられることなら答えてやってもいいよ」
「えっと…どうして術の力で怪我の治療が出来るんですか?それと、その力を使ってあげない人が居たのはなんでなのかなって」
「何だ………そんな事か」

 今迄の芹那の行動を隈なく見ていた籐弥は、ただ単純に自分の感じた疑問を口にした。その言葉を聞いた芹那は、何かを少し期待していた自分がバカらしいという気分になり、大きな溜息をつくと籐弥に向かって眈々と話し始めた。

「人間は、自然治癒力ってものを誰でも持ってること位は解るよな?小さな怪我なら放っておいても治るんだから」
「それは解りますよ」
「俺が普段やってることは、怪我をした人間の自然治癒力の速度を力を使って早くしてやってるだけだ。でもこの力に頼ってばかりだと、治癒力が欠落する。だから余程のことが無い限りは、何度も術は使わないし放っておくんだよ」
「そういうことなんですか…なるほど」
「それはそうと…籐弥は少しは頼った方がいい。君はいくらなんでも頼らなすぎだ」
「へっ?」
 

 不意に自分の事を言われ、同じ目線に芹那の顔が来た為に、籐弥は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「腕の傷だってそう、肩の傷は…祖母ちゃんが薬で酷くならない様にはしてるみたいだけど、痛いのが好きなのか?身体に痛みがあると快感を感じるとでも?そういう偏った癖でも持ってるのか?」
「そんな変態みたいな癖はないです。痛めつけられたり吊るし上げられてヒィヒィ喜こんで『もっともっと打って打って女王様ぁ』とか何て考えは更々ありません」
「誰もそこまでは言ってない…」

 呆れた顔の芹那は、籐弥の右肩に手を添えると軽く目を瞑り、自身の集中力を高め、少しだけ掌を離したかと思えば、その掌で肩をトンっと突いた。
 肩を突かれた籐弥は顔をしかめて悲鳴を上げようとしたが、肩からは全く痛みが伝わってこない。伝わって来たのは肩を突かれたという感覚だけであった。

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