中出し帝国 58
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「…ぁ…あれ?私…」
ルルは目が覚めると、ベッドの上にいた。
周りを見渡せば、この部屋には見覚えがあった。
「何でシエラの部屋にいるの?…って、私何してたんだろ。…うっ…あいたた。マンガじゃあるまいし、思い出そうとするだけで頭が痛くなるなんて。いつつ。」
ルルは、鈍い痛みのある頭を押さえながら、ベッドから身体を起こす。
クラウの魔法の副作用か、ルルは地下牢での出来事を思い出せないでいた。
記憶を辿ろうとしても、鈍い痛みに阻まれ曖昧なままである。
「ルル殿。お目覚めになられたようだな」
ルルが声のした方にハッと目を遣ると、腕組みしたシエラが立っていた。
シエラはベッドのすぐ側まで歩み寄り、穏やかな表情のままルルを見下ろす。
「おはよ、シエラ……何で私ここに居るの?」
ルルはボーッとする頭を摩りながらシエラに尋ねた。
「は。私は、任務で囚人を地下牢へ連行していたのですが……」
その帰り際、たまたま開いていた牢が目につき、中に横たわるルルを見つけたという。
「そのまま自室へお連れしようかと思ったのですが、何故か途中で兵士達にやめた方が良いと薦められまして」
ルルはそこには心当たりがあるのか、敢えて詮索をしなかった。
シエラも無粋に思ったか、ルルが地下牢に居た理由を詮索する事もない。
「……そう。ありがとう、シエラ」
ルルが礼を言うと、シエラは目を閉じ黙って頭を下げた。
シエラは尻尾をふりふりと動かしながら、部屋の出口へと歩いて行く。
ルルがその背中を見送ると、シエラが振り向いて笑顔を見せた。
「どうか、ご無理をなされぬよう……」
シエラは再び頭を下げ、部屋を後にした。
1人部屋に残されたルルは、ベッドへ身体を投げ出すように倒れ込む。
天井の幾何学模様を見つめると、頭の中にもモヤモヤが渦巻くようだった。
「私は、どうしたいのかしら……?」
照明の光に重ねるようにルルは手を伸ばす。誰に問うでもなく、そして1人呟いた。
「私は一体何……?」
ルルはベッドに寝返りを打つと迷っていた。
本来、家臣が君主を重んじるのは当然かもしれないが、君主であるルルは、彼女達に何も返してやれることが無いからだ。
封建制度の風上にも置けない状態と呼んでも、到底過言では無いだろう。
このままでは、何も出来ない。変えられない。
父親であるヴァクトールの思考すらも余り理解出来ずにいるままで、無駄に歳を取ってゆくのだろうか。
国の為、泣く泣く産ませられた子供達。その子供達を眺める度に、母親達は胸に傷を背負いながら生きていかねばならないのだろうか。