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世界征服
官能リレー小説 - ファンタジー系

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世界征服 42

そう言うと壮年の宰相の頬を一筋の涙が伝った。
宰相バルトロメウス…彼はグランディア人ではない。滅ぼされた王国の中流貴族の二男だったが、グランディア人貴族の娘と結婚して婿養子となったのである。帰化したとはいえ他国出身の人間が宰相という国家の最重要職に就くというのは、保守的なグランディア帝国では前例の無い事だった。
これには訳があった。
前宰相は七十という高齢だったのだが、彼は先の魔族の攻勢の最中に頓死した。あまりの急な死に暗殺説も囁かれたが、実際のところは帝国領内に魔王軍が侵攻して来たため、その対応に追われ、その心労がたたったためであった。
彼は自分の後任について何も言い残す事無く死んでしまった。そして不幸な事に当時、跡を継いで宰相の地位に就くに相応しいとされる家柄の者の中には、魔族の侵攻という国家の存亡に関わる懸案事項を任せるに足る人物が一人も居なかった。
そこで名前が上がったのが当時、地方の領主であり、その政治手腕を高く評価されていたバルトロメウスだったのである。
本来なら宰相になれるような家格ではなく、しかも帰化人…当然、保守派貴族達を中心にかなりの反発があったが、皇帝の鶴の一声でバルトロメウスは宰相の地位に就いた。
彼の指導の下、帝国は魔族との戦いを繰り広げ、やがて(勇者によって魔王ザインが討たれた後ではあったが)魔王軍を撃退した。
その後、皇帝シュルツの強い希望を受け新たな南侵に向けての準備を着々と進めて来た彼であったが、魔王ザインが再び世に出現し勢力を盛り返して来た事により帝国の南侵計画は再び潰え、現在に至るのである(つまりシュルツ皇帝は二回も魔族に南侵を邪魔された事になる)。

そのバルトロメウス宰相が言うのだから、その言葉に間違いは無いのだろう。とにかく皇帝はこの宰相に対して全幅の信頼を寄せていた。
「…あい分かった。アルベルトの案を採用し、他の三国との関係は今まで通りに、さらに魔族との対話も模索してみる事としよう」
「そういう中途半端な姿勢が一番悪い!!」
「そうですよ。双方に不信感を抱かせる事になり、我が国の立場が…」
「お前達くどいぞ!父上がお決めになった事だ」
イシュトヴァーンとウルリッヒは反対し、それをアルベルトがたしなめる。

「…まったく、あの親父はいつもああだ!あのバルトロメウスの言う事は何でもホイホイ聞き入れやがる!」
「いや、僕はバルトロメウス宰相の手腕は評価しますがね…。しかし政策決定に際して父上が僕らの意見を聞いて来たのは初めてだな…」
あの後、アルベルト、イシュトヴァーン、ウルリッヒの三皇子は父の部屋を後にした。その後、なぜかイシュトヴァーンはウルリッヒの部屋を尋ねて来たので、二人は度数の強いグランディア酒を飲みながら愚痴に華を咲かせていた。
「へ…ッ!親父も耄碌(もうろく)したって事だな。いちいち俺達の意見を仰がなきゃならないなんてよ…」
「確かに二度目の南侵計画がダメになってから、父上はすっかり老け込んでしまいましたね。もうご自分のお年では三度目は無いという事が分かっておられるんでしょう。ですが兄上、今日父上が僕達に意見を問うたのは、ただ単に判断に迷われたからという理由だけではないと僕は思うのですが…」
「…ほう、どういう事だ?」
イシュトヴァーンは身を乗り出して尋ねる。
「父上はあの質問に僕達がどう答えるかを見ていたのですよ」
「…何のために!?」
「もちろん、ご自分の後継者…次期グランディア皇帝に僕達三人の中の誰が相応しいかを見定めるために決まっていますよ」
「やっぱりか!」
イシュトヴァーンは思わずイスを倒して立ち上がって叫んだ。
「やっぱりそうか!チクショウ!そんな気がしてたんだ!じゃあ次の皇帝はアルベルトに決定か!?」
「落ち着いてください兄上、まだ決まった訳ではないと思いますよ」

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