世界征服 19
「英雄は妖艶(いろ)を好む……先々で天下制覇を争っていた武将は男色をよしとする風潮よりはまだよかろう……」
「サスケ!」
ハンゾウのライバルであり、戦友の真田十勇士の一人が姿を現す。戦国末期、アマテラスに組した悲運の天才軍師一族真田家の忍びである。
「来たと言う事は」
「ヤマトの妖怪はまっ二つに割れてます。ザイン魔王に協力している一派とそれをよしとしない一派です」
「魔者と手を組むのか?」
「妖怪は人を驚かして自然を調和する神のしもべ……我が真田家は古代から妖怪と人間の橋渡しを生業とした一族でもあるのです」
セレナの背後に大陸馬の手綱を引く武人が出現した。
「真田 幸正と申します……ツクヨミ様、ご機嫌麗しく」
「口上はよい……真田よ、名代として勅命を出す。ヤマトの国にはびこる魔の者を討て」
幸正は膝を付き深く頭を下げた。
「アルス殿、セレナ殿に協力して貰いたいのです」
「戦場に居る者は赤子も使えか」
ツクヨミの表情はニヤっとする。
「アルスが持つ剣じゃ……危ないわね」
ヤマト国は他の三カ国とは異なり武具も独創的で特に刀は独特な形と使い方により大陸の騎士では使いこなせない。彼が持つ剣もボロボロであり、この国で手に入れる事は不可能に近い。
「心配無用……」
真田が告げるといつの間にかオーガと見間違う程の巨体な人間が二人立っていて。
「我の名は青導坊主」
「我の名は紅導坊主」
「この二人は刀鍛冶司でもある……アルス殿が使用している剣を鍛え直す、即ち作り直すと言う事だ」
「え?まってよ!」
「我が真田家に仕える者は祖先が大陸から流れて来た者もおり大陸刀も使用する所がある。この二人の祖先も大陸から来た者の血が入っておる」
「わらわの鬼切丸もその大陸刀の流れを持つ。鍛冶場は御用鍛冶師がおるサカイがよかろう」
サカイとは国際貿易港の一つでアルスも数日間滞在した事がある。
アルス達は途中で真田家の軍勢と合流し、サカイへと入った。
「これはツクヨミ様!!!」
御用鍛冶場の責任者の武士がツクヨミを見て、膝を付いて頭を下げ、鍛冶職人も作業を止めて臣下の礼儀をする。
「すまないが鍛冶場の一角を借りたい……」
「この様な粗末な場ですが」
「客人の刀を鍛え直す程度じゃ、職人は作業に戻れ……お主らの戦場はここだ」
アルスとセレナは茫然とした。
「ツクヨミ様、色街を探ってまいります」
「気を付けろよ、大陸の妖怪は人智を超えているからな」
サスケはその場から消えた。
青導坊主と紅導坊主は上半身裸になり、アルスの剣を釜へと入れた。
「「姫様……酔いますので」」
「酔う?」
セレナはキョトンしているとハンゾウは言う。
「あの二人の汗は女性を酔わすからな……処女の者は悶え苦しみ、膜を破らん限りは逃れらなない」
アルスは直ぐにセレナを鍛冶場から連れ出した。
一方、ザイン帝国。
待機用牧場にはマリンの娘のアンナだけが残されていた。アンナがまだ子作り可能かどうかギリギリだったからだ。さすがに10歳相当の肉体では魔物の巨大ペ○スは受け入れられないだろう。
他の者達は皆、繁殖用牧場の方へ移された。母マリンも兄ヨハン(12歳相当)も子作り可能とされ連れて行かれた。
「グスン…一人ぼっち…母ちゃん、兄ちゃん…」
アンナは牧場の柵に寄りかかって一人で泣いていた。
「お姉ちゃん、そんな所で何してるの?」
「泣いてるの?」
「え…?」
ふと後ろから声を掛けられアンナは振り返った。そこにいたのは5〜6歳ぐらいの魔族の少年と少女だった。
「僕はシド」
「私はリーナ。お姉ちゃんの名前は?」
「アンナ」
「アンナお姉ちゃんはこんな所で何してんの?」
「分かんない…母ちゃんと兄ちゃんが一緒だったけど、どっかに連れて行かれちゃったの…」
「一人なんだ。じゃあ僕達と一緒に遊ぼうよ!」
「無理だよ…だってこっから出られないもん…」
「ふ〜ん…」
「お姉ちゃん、かわいそう…」
リーナの瞳から一粒の涙が落ちた。それを見たアンナは、今まで恐ろしい物だと思っていた魔物の印象が少し変わった。それは魔物と人間の何とも不思議な邂逅だった。