元隷属の大魔導師 46
振り向くと、驚くべき事にそこにはゼノビスV世が、不安げに立っていた。
「これは、閣下。護衛も連れずに……私に何か?」
「………先程の話しは、真か?」
「と、言いますと?」
「ヒルツが助かる、という件だっ!」
「ええ……絶対ではありませんが、高い確率で…」
「そうか……貴公、デルマーノと言ったな。少し、歩かないか?」
「はい……」
デルマーノとゼノビスは中庭に出て、散策する。
そんな二人を月光は優しく包んでいた。
「はぁ〜……」
アリアは兵舎の前で青く光る月を見ていた。
フローラと同室だったのだが、デルマーノを待っていると彼女にからかわれ、恥ずかしかったので外に出たのだ。
デルマーノの慇懃な態度には不安はない。だが、昼の様に相手へ反抗するのでは、と心配ではあった。
「よぅ………んな所で何してんだ?」
「っ?……デルマーノ…」
脇に野菜の盛ってある籠を持ったデルマーノが影から月光の下へ登場し、アリアに話しかける。歌劇の演出を彷彿させた。
「……で………?」
デルマーノは籠からトマトを取り、口一杯に頬張りながら尋ねる。
「貴方を待っていたのよ……心配で…」
「?……何が、心配だったんだ?」
むしゃむしゃ、と口を動かしながらも彼の声は聞き取りやすかった。
「ほら、昼に貴方が喧嘩を売ったじゃない?え、っと……」
「クラングランなんちゃら、か?」
「そう、それよ。それで心配になってね………何も無かったでしょう?」
アリアは確認の為に聞く。彼の態度から何かがあったとは思えないからだ。
「ああ……問題はねぇ。只、皇子に突き飛ばされて、んの後に皇と密談をしただけだ」
「………ぇ?」
「問題はねぇ…」
「訳ないでしょっ。何があったの?詳しく教えてっ!」
驚きに声を上擦らせ、アリアは注文をした。
「大した事じゃねぇんだが……ユーノに頼まれただろ?その事で皇子様と言い争ったんだ」
「……それで?」
「んで、その後にゼノビス皇にヒルツを助けられないか、と相談された」
「ちょっと待って。皇子を助けるって……」
「亡命させるって事だな」
「どうやって……クレディアが認めるとは…」
「イッヒッヒッ……」
デルマーノに手招きをされ、近付くと、彼の描いている奸計を耳打ちされる。
「…………デ、デルマーノ……それはいくら何でも……」
「準備もバッチリ、後は実行するだけ、ってな」
デルマーノは歯を見せて笑うと、人参をバリバリと噛み砕いた。
翌日、ターセル軍とクレディア軍との間でシンシア皇妃、ユーノ姫、リリア姫の亡命の認可の交換条件にゼノビス皇、ヒルツ皇子のクレディア軍への投降という取引が成立した。
二日間の皇、皇子が投降するための準備期間がクレディア軍より与えらる。
翌日の夜、ターセル皇国、最後の晩餐とし、盛大なパーティーが行われた。
シュナイツ近衛騎士隊も招かれ、国庫を開けての飽食を楽しんだのであった。