FANTASYC PSY 9
度重なる筋肉痛と戦いながら、彼はこっそりトレーニングを重ねてきたのである。
そしていよいよ狩りに出られると聞き、邦人は思わず顔をほころばせた。
何しろ狩りと言えば、1人前になった男たちの仕事。
これで認められれば旅に出る実力もついたも同然だ。
「ああ。見てろよ、メアリー。
狩りでも最初は足を引っ張るかもしれないけど、すぐに村1番の狩人になってみせるぜ!」
「・・・フフッ。そうなってくれる日を楽しみにしてるわ。
何しろ、ウチの居候さんには返してもらわなきゃならない貸しがたくさんありますものね 」
「げ、メアリーまでそんなこと言うなよ」
「アハハッ!さ、ごはんにしましょ!」
邦人は気づかなかった。
村1番の狩人になると言ったとき、メアリーの顔が一瞬くもったことを。
そしてメアリーが見ず知らずの邦人を住ませてくれた、その理由を。
翌日、村の男達が広場に集合する。いよいよ、狩りをしに出かけるのだ。目的は体高が3mもあるビッグボア。
野兎や野鳥は周辺でも狩れるが、このビッグボアは森の奥まで、それも複数人で対応する必要がある程の危険な野獣だ。
突撃を受けただけでも骨折する恐れがあり、下手をすれば死ぬ可能性すらありえる程の獲物だが、一回で採れる肉の量が他の街に売り出せるほど多いのが強みだ。
村の男衆は皆、これから狩る相手に気合を入れている。だが……
「おいおい、こんなひ弱そうな奴を入れて大丈夫かよ。足手まといだから家で女共に混じって手伝ったほうがいいんじゃねぇか?」
明らかに人を小馬鹿にした嘲笑した声が邦人の耳に入る。
「こいつ、農作業でびりっけつになっていた奴ですぜ、グラの兄貴」
その内の子分らしき男が嫌味ったらしい笑いをしながら言う。
「ガハハハハッ、なんでぇ。びりっけつになるほどひ弱な奴かよ!!まあ、せいぜい足を引っ張るなよ。なんだったら、尻尾巻いて帰っていいぜ!!ガハハハハッ!!!」
大笑いしながらグラと呼ばれた男は言うだけ言って満足したのか、子分を連れて去る。
「なんだよ、あいつ。だったら、こっちだってムカついた分やってやるさ」
グラの言い分に腸煮えくり返りそうな勢いの邦人は見返してやろうと去っていくグラを睨み付けた。