FANTASYC PSY 8
それからというもの、働いては筋肉痛になってベッドに直行を繰り返し、今でも多少はマシになってきたものの続いている。
おかげでプライドもずたずた、痛恨の一言で邦人の心にぐっさりと言葉の槍が突き抜けるのはほぼ毎日だった。
それでも、メアリーは寝込む羽目になった邦人の世話をしてくれるから、邦人も迷惑を掛けてしまっているのを情けなくもありがたいと思っていた。
しかし慣れとは恐ろしいものである。
過酷な家事・労働と筋肉痛による休息を繰り返した結果、邦人の身体はどんどん鍛えられていった。
またボロボロにされたプライドは、邦人に更なる変化をもたらした。
元々負けず嫌いだった邦人は、みんなを見返してやろうと密かに特訓を開始していたのだ。
そのおかげもあり、邦人は短期間での体力・筋力の増強に成功したのだった。
しかしそんな邦人にも苦手なものがある。勉強の時間だ。
何しろ邦人がいるのは異世界。
言葉が通じたのは幸いだったが、その文化は邦人の知っているものとは全くの別物であった。
文字の読み書きや食べ物などの一般常識、さらに旅に出るのに必要な基礎知識を1から片っ端に詰め込まなくてはならない。
自由時間もなく労働しっぱなし、もしくは学校と塾の二重生活でプライベートの時間を持てない受験生の生活を思い浮かべてみれば、その時の邦人の生活の大変さが伝わるだろう。
そして邦人が異世界に迷い込んでから数ヵ月後。
ようやく異世界の生活に慣れ始めた彼は、今日もヘトヘトになって家に戻るのであった。
「ただいま〜」
「お帰り。今日もこってりとこき使われたみたいね〜?」
疲労困憊で戻ってくると、そこにはすでに帰ってきていたメアリーが夕食の支度をしていた。
「あ〜。今日は羊飼いのノードルさんにたっぷり扱かれたよ。
あのオヤジ、ホントに人使い荒いったら・・・」
「うふふ・・・っ。ようやくあなたも使い物になってきたんだもの。
私も今まで迷惑かけられた分、たっぷりお返ししてもらわないとね」
「・・・できれば出世払いで少しずつ返済したい」
「あはは。でも最初の頃と比べるとダイブ進歩したよね〜。
これなら狩りにもすぐ参加できるんじゃない?」
心底嫌そうな顔をする邦人を笑いながら、メアリーは彼の進歩を褒め称える。
確かにそれは当初の実力を考えれば格段の進歩だった。
その格段の進歩の裏には、邦人の並々ならぬ努力が隠れていたりするのだが。
この邦人という少年、実は結構プライドが高く負けず嫌いなためそのことをおくびにも出さないのであった。