FANTASYC PSY 1
バケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。
夏真っ盛りの山の中ではよくある夕立が容赦なく大粒の雨が少年に爆撃してくる。
「くそっ!!さっきまでは晴れていたのにこれかよ!!」
思わず、降り注いでくる温い雨に毒づきたくもなる。服は既に内側までびしょぬれになっており、不快感が這い回る。
先を行く友人達の姿が霞み、目に入った雨水が染みて思わずこする。
夏休みに入る前に女子を交えた友人とピクニックで山登りを計画していた。
まあいいかと思ってその計画に男子生徒、伊勢 邦人(いせ くにひと)は乗った。
女子との交流を育む絶好の機会でもあるし、この夏くらいは彼女を作りたいと思うのも年頃の男としては当然の思考だ。
汗だくになってキンキンに冷やした麦茶を飲みながら山を登り、重いバーベキューセットを広げた昼食まではよかった。
途中から雲行きが怪しくなり、雷特有のゴロゴロとした音がする。見上げるほどに高い雲の塔。しかし、その底辺は鉛色所か黒ずんで重そうな雰囲気をかもしだす。
じわりじわりと黒雲が迫り、これはやばいなと思いつつ出したバーベキューセットの器具を片付ける。
急激に発達した雨雲から熱帯のスコールの如く降り注ぐのはその僅か数分後だった。
降り注いだ雨水は山道特有の地肌むき出しの僅かばかりに舗装された道にあっという間に細い河を作り、流れる。
時折鳴る雷は轟音と共に閃光が迸る。
「ひゅー、結構でかかったな。こりゃ、近くに落ちたな」
滅多に落ちては来ないとはいえ、近くともなればぞっとする。さっさと山を降りたいと焦っただろうか?
「うわっ!!」
驚いた邦人の声と共にぬかるんだ泥に足を取られ、滑る。
その先には下まで見える急斜面。生きていられるかなとどこか冷静な自分が思考する。
重力からほんの少し開放された感じがして……
「おわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
友人達の叫びを聞きながら、邦人の体は泥塗れになりながら、山間の谷底へと転がり落ちていった。
眼を覚ました邦人の視界に飛び込んできたのはログハウスのような木を組み合わせたような天井だった。
「ここは……?」
ぬかるんだ地面に足を滑らせて、崖から転落したまでは覚えている。と言う事は、誰かの別荘に運ばれたのだろうかと状況を推察する。
周りを把握しようとして身体を動かそうとして……支えようとした腕に痛みが走った。
「いたっ……」
悲鳴を上げる筋肉や骨に顔を顰め、自分で見ようとして……自身の服が見たことも無い質素な服に変えられている事に気がついた。
「なんだ、この服?」