FANTASYC PSY 41
退屈ながらも平和だった元の世界での日々。
この世界に来るきっかけとなった、ピクニック。
そして山の谷底に落ちた邦人は、この世界にやってきた。
メアリーとの出会い。そして生活。
右も左もわからないこの世界で、メアリーの生活は何よりも邦人を支えてくれた。
だが今。邦人はそんな心の支えを襲ったカメの化け物の身代わりとなって、死のうとしている。
このまま行けば間違いなく自分は水死体となってこのカメに食われるだろう。
(―――嫌だ)
ドクン・・・
想像を絶する苦痛の中、水死体となって食われる自分を想像した邦人の中で何かが目覚める。
それは邦人の生きようとする意志に呼応するかのように、脈動を繰り返す。
そしてそれはヴァイト・タートにもハッキリわかるほどの変化となって現れる。
くわえていた邦人の腕、いや邦人の身体全部が急激に熱を帯びてきたのだ。
冷たい水中だというのに、そんなことお構いなしにどんどん熱量は増していく。
危険を感じたヴァイト・タートは、とっさにくわえていた腕を放すもわずかに遅かった。
邦人を放した事で熱の上昇は少しずつではあるもの勢いが落ちる。
だが、既に許容量を超えた熱を体内に抱えたままのヴァイトタートは不気味に膨れ上がっていく。
体内の体液は沸騰寸前。だが、他の生物より頑丈な皮膚は堪えきった。
もっとも、ヴァイトタート自体は既に過剰熱で死んでいたが……
そして、邦人も水中でもがいて水上に浮上する力が無いほどに消耗していた。
力が抜け、目の前が霞んだように邦人は意識を手放してしまう。
その邦人の身体をヴァイトタートの遺骸が体内の空気で皮肉な事に邦人を乗せて浮上する。
「ったく、なんでこんなややこしい仕事を持ってくるんだおまえは」
「うるさいわね。報酬が他のよりよかったのよ。430万よ、430万!!」
「だからといってヴァイトタート退治はないだろ!!しかもレイク種だぞ!!」
「いいじゃない。甲羅が手に入れば高く売れるし♪」
剣士風の男が魔術士風の女性にぶつくさと文句を言う。男性剣士はルーク、女性魔術士はレイン。
二人はコンビを組んで冒険者ギルドからの依頼を受けている。
まあ、レインは少々金にがめついのが玉に瑕。その被害に合うのはもっぱらルークだったりする。
「ふざけるな。大体、割りに合わない被害を被っているのはこっちだぞ!!」
「あっ、あれね」
文句を言うルークをスルーし、目的の湖が見えてきた。
だが、その湖畔の岸辺には全裸のメアリーが意識を取り戻さない邦人を必死に揺さぶっていた。
あれから、ヴァイトタートの遺骸と共に浮いてきた邦人に気がついたメアリーだが、気絶していた事に邦人が死んでしまったのではないかと不安を感じた。
そして、口元に耳を澄ませると呼吸していない事に気がついたのだ。この世界に緊急医療行為が伝わっているとは思えない。