FANTASYC PSY 12
そして思う。自分はなんて恵まれた世界にいたのだろう、と。
精肉業者や畜産業者はなぜこの感覚を味わって平然としていられるのだろう。
何度も何度も繰り返し味わっていくうちに感覚が麻痺したのだろうか?
もしそうだとしても、自分はそうなる前にきっと頭がおかしくなっているに違いない。
邦人は荒い呼吸を繰り返しながら、そんなことを考えるのであった。
――――
「・・・ただいま」
「お帰りなさい・・・って、何かあったの、邦人!?
あなた、今にも死にそうな顔してるわよ!?」
邦人の消耗しきった顔を見たメアリーは、驚いて邦人の介抱しようと駆け寄った。
無理もない話だ。何しろ狩りが終わってから、邦人はずっとビッグボアを殺した罪悪感にさいなまされていたのだから。
邦人はあの後もできるだけ明るく振る舞おうとしていたが、とてもごまかせるような状態ではなく、同行していた村人たちから報酬の一部(ビッグボアの肉)を渡され、早々に帰らされていた。
獲物に止めを刺したグラは何を勘違いしたのか、
「けっ、これだから役に立たない軟弱野郎は嫌なんだよな。
さっさと帰ってメアリーにおっぱいでも吸わせてもらってろ!」
などと侮蔑の言葉を吐いていたが。
とにかくメアリーは邦人を家に入れると擦り傷・泥まみれの身体を拭いて傷の手当てを施した。
その間、邦人は自分の手を時折見るだけでじっとしていた。
それは彼が童貞を捨てた(生き物を殺した)ショックがいかに大きいかを物語っていた。
明らかに普段と違うその反応に、メアリーはただならぬ気配を感じ、声をかける。
「・・・ホントに大丈夫、邦人?狩りで何かあったの?」
「・・・ッ!!」
しかしうかつに声をかけたのは間違いだった。
『狩り』の一言で、邦人は必死に忘れようとしていた、あの感触と光景をまざまざと思い出してしまった。
肉に剣がめり込んでいくあの感触。
自分たちの勝手な理由で命の灯火を消されていく、あの光景・・・!
「う・・・ううッ・・・!ううぅ〜〜〜ッ!?」