blood&witch 85
(……悪いんだが、宿についたら時間とコレ、割いてくんねぇか?)
フェイクが右手の親指と人差し指で輪を作る。
(……わかりました。ついでに人払いもしましょう)
(悪ぃな。恩にきるぜ)
フェイクとステイの密約がかわされる中、一行は宿へと入った。
「あいにく、今日は二部屋しか空いておりません」
「またこれか…」
カウンターの従業員がそう言った途端、ナリナとビーザスの間で火花が飛び散る。
フェイクは頭痛がしてきた。
(俺、もめ事の神様にでも取り憑かれてんのか?)
そう思いたくなるほどにトラブル続出である。
「今回は!私がフェンリルと相部屋しますわ!!」
「何を言う!貴様如きがフェイクと相部屋だと!?フェイクは私の召使いだ。私と相部屋するのが常識だろう!」
「そんな常識知りませんわ!!フェンリル、今回は私と相部屋しましょう!!」
「フェイク、こやつの妄言に耳を貸すな!!おい従業員、こやつは物置で良い!!」
「あなたこそ、物置で寝れば良いんですわ!!」
ロビーで舌戦を繰り広げる女性二人。何事かと、野次馬が現れ始めた。
「フェイクさん、そろそろなんとかしないと」
「俺に言うか?」
ステイがフェイクを促す。確かにこのまま大騒ぎを続ければ、宿を追い出されかねない。
かと言って、あの二人の間にフェイクを投入すれば、火に油だ。
あっちが立てればこちらが立たず。逆もまた然り。
実に進退窮まった。
「ねぇ、フェイクさん。アタシ思ったんですが…」
我関せずを決め込んでいたフルルが、何かを閃いた様だ。フェイクに耳打ちする。
「かくかくしかじか」
「ふんふん…。あ、確かに。何で気付かなかったんだろ?」
納得したフェイクは早速実行に移す。
従業員に事の次第を説明し、さっさとチェックイン。鍵を受け取る。
流石はプロ、はた迷惑な連れがいても客は客なのだろう。親切丁寧な応対で、フェイクは少し罪悪感を感じた。
で、そんなはた迷惑な連れは…
「もう我慢ならん。そこになおれ!壁に埋めてやる!!」
「それはこちらの台詞です。十枚におろして差し上げます!!」
「だぁ!まて、ハイストップ!そこまでだ!!」
本気で殺し合いに発展しかけていた。
「いいか。部屋割りを発表する!」
フェイクが2つの鍵を持ちながら、腕組みをする。
「俺とステイ。もう一部屋は女達だ。以上」
「な、なんだと!?」
「な、なんですって!?」
奇しくも、ナリナとビーザスの声はハモった。一瞬睨み合うが、すぐにフェイクに詰め寄る。
「どういう事だ!?」
「なぜ、私がこの女と相部屋しなければならないのです!?」
「理由か?どっちもお互いが俺と相部屋するのが嫌なんだから、いっそのことどっちとも相部屋しない。以上」
確かに、それは一つの方法である。ただ、その二人が相部屋して内装が赤くならないかはわからない。