PiPi's World 投稿小説

blood&witch
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 120
 122
の最後へ

blood&witch 122


湯浴みを終えたナリナは、脱衣所に服がなくなっているのに気づいた。
洗濯でもされているのだろう。さて、どうするかと思案したところで、彼女は籠の中にあの、レブが縫っていた布の塊を見つけた。
きちんとたたまれた今では、布の塊というのは正しくなかった。それは服だった。
体に沿う濃紺の長衣だ。生地は上質で、背に入った複雑なカッティングが美しい。

着込んでみて、彼女は顔をしかめた。
服が気に入らなかったわけではない。それどころか、体にぴったりと合ってとても着やすく、またナリナによく似合っていた。
だが、問題は、体にぴったりだという事実だ。どう考えてもアルヘンティナの持ち物のはずだが、彼女はナリナより背が高く、サイズもいくらか大きい。
レブは裁縫が上手だ、とわざわざ彼女が口にしたことを鑑みれば、答えはおのずと出る。
だから彼女は顔をしかめたのだ。
「くっ、礼を言わねばならんのか?」

苦悩しつつ浴場を出ると、アルヘンティナが一人でお茶の用意をしていた。

「よかった、よくお似合いですよ。レブでしたら、夕食の支度をしております。どうぞお茶でもお召し上がりください」
「そ、そうか」

アルヘンティナの淹れた、甘みの強い茶を飲みながら、ナリナはふと尋ねた。
「この家には空気を清める魔法がかかっているようだな。お前の仕事か?」
「おわかりですか」
アルヘンティナは頷いた。
「正確には呪物任せで、わたくしは時折調整するだけですけれど」
「呪物だと?」
「密閉空間内の環境を制御する呪物です。この家にはいろいろございますよ。私的なことで恐縮ながら、珍しい呪物の収集が趣味なものですから」
彼女は少し気恥ずかしげに微笑んだ。
「よろしければ、ごらんになりませんか? せっかく集めてもこんなところでは見せる方もいないのです。価値のわかるお方にぜひお見せしたく存じます」
食事までまだ時間がかかると聞いて、ナリナは彼女の提案に頷いた。

案内された宝物庫に整然と並べられた、呪具、魔術具の数々に、ナリナは瞠目した。
今の世で、これほどのコレクションを維持するのは並大抵のことではない。
「小化幻燈、時列操呪布、石礫帽まであるのか…」
聖遺物と呼ばれ、現代では魔女の里からも失われて久しい呪具の数々に、ナリナは手を触れるのをためらった。
「どうぞ、お手にとってごらんください。黒の魔女様にゆかりの品もあるやもしれませんね」
にこにこと上機嫌な様子で、心底いとおしげに収集物を愛撫するアルヘンティナの姿を見るうちに、ナリナはふとある考えに到った。

「…あの男」
 彼女は小さな金細工の装飾品を手にとりながら、呟くように言った。
「妙な気配だ。ただの人間ではない。しかし、吸血鬼やゴーレムの類にも見えない」
「レブのことでしたら、いずれ、おわかりになります」
「あいつも、お前のコレクションのひとつというわけか?」
さぐるようなナリナの視線に、彼女は静かに目を伏せ…すぐに、見つめ返した。
「…最初は、そうだったかもしれませんね」
アルヘンティナはそういって、謎めいた、魔女らしい笑みを浮かべた。


,
の最初へ
 120
 122
の最後へ

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す