比翼の鳥は運命の空へ 3
こんなに早く獲物が見つかったのは久しぶりだ。アレスは小さく口笛を吹きながら、弓を構えた。
矢をつがえて弦を引き絞る。
(今だ!)
兎が警戒を解いた瞬間を見計らって、アレスは矢を放つ。
放たれた矢は狙いを過たずに見事に命中した。
「よっしゃ!」
仕留めた獲物は矢を抜いて革袋に詰め、次の獲物を探して再び歩き出す。
それから二時間ほどは兎どころか、小鳥すら見る事は無かった。いつの間にか、山の雰囲気も変わっている。
背筋が凍り付くような威圧感を感じて、アレスは歩みを止めた。
「血の匂いを辿られたか」
革袋を置き、腰から剣を抜く。
構えると、先程からの威圧感が殺気に変わった。
(……来る!)
左側面から来た攻撃を、アレスは地面を転がって避けた。
すぐに起き上がって構え直す。
襲いかかって来たのは、灰色の毛並みを持つ狼だった。しかし大きさが尋常じゃない、体長が四メートルを越している。
ただの狼ではない。怪物種、俗に魔物と呼ばれる危険な種類の狼だった。
その力は凄まじい。さっきの不意打ちだって避けなければアレスの首がもげていただろう。
「なるほど、さっきの兎は俺をおびき出す囮か」
魔物の厄介なところは、動物よりも人間の肉を好むところだ。だからか、彼らは見た目以上に知恵を働かせて来る。言ってみれば、彼らは人間の天敵なのだ。
しかしだからと言って人間が一方的に喰われているわけではない。
「頼むぜ、聖霊さん!」
アレスが高らかに告げると、彼の周囲に無数の光の粒が発生した。
その光の粒は聖霊と呼ばれている。彼らは世界のあらゆるものに宿る意識体であり、自然界のエネルギーそのものだ。
その聖霊と心を通わせて、絶大な力を振るう事ができる者たちを、人々は聖霊使いと呼んだ。アレスもまたその一人だ。
集まってきた聖霊たちはアレスの身体に吸い込まれていく。
アレスは力が涌き上がるのを感じた。
「行くぜ!」
地を蹴り、駆ける。
そのスピードは先程の大狼よりも遥かに速い。
だが大狼も黙って突っ立ってはいない。今度こそ首をもいでやろうと、再び飛び掛かる。
それと同時に、アレスも跳んだ。
大狼は牙を剥き、アレスも剣を振りかぶる。
空中で二つの影が交差した。
無事に着地できたのは一人。