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大陸魔戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大陸魔戦記 2

 陥ちる都、その中央に位置するリリエンタール宮殿。
 既に多くの侍従や女官が逃げ去り、寂寥とした王座の片隅に座するは見目麗しき乙女。
 髪は朗らかな金。肌はどこまでも透き通る白。されど瞳に宿る不屈の精神と、白銀に輝く鎧を纏い、剣柄を手に静かに佇む彼女の姿は、あたかも戦女神と見紛う程。
 煌びやかなる金銀の鎧を纏った将軍や傭兵隊長たちの前にあっても、彼女の美しさ、気高さは微塵も霞む事はない。
「申し上げます!」
 愚にもつかぬ諸将軍らの口論の中、駆けつけてきた伝令が、声を大にして奏上する。
「陛下は自ら近衛騎士団を率いて決死の突撃を為し、数に頼む敵を相手に果敢に…」
 身に走る激情に言葉が続かず、伝令はしばし顔を背け、しかし己の務めを果たさんと姿勢を正した。
「見事な最期でございました」
 諦めとも嘆きとも聞き取れる声が上がり、居並ぶ武官たちが顔を俯ける。
「そうか…父上が、亡くなられたか」
 沈黙の中で、かの乙女、第一皇女セリーヌは呟きとも取れる声を漏らした。
 されど、それも束の間の事。瞬く間に表情を切り替え、凛とした声で命じる。
「もはやこれまで。退却にうつる。予備の歩兵隊の一部を割り、市内に残る民たちの避難に当たらしめ…」
 それまで流麗に指示を進めていたセリーヌは、居並ぶ諸将軍の中から妙齢の女将軍が進み出るのを見咎めて顔をしかめた。
「殿軍の名誉は是非、私に」
 ならぬ、そう言いかけた皇女は、しかし口を噤む。目線を下げたままの女将軍を睨むが、やがて諦めたように溜め息をついた。
「思えば卿とは長き付き合いだ。ならぬ、と言っても聞かぬのであろうな」
 悔しそうにそう洩らした。
「よかろう。卿に一任しよう」
「御意」
「ただし、アグネスよ」
 皇女は一つ、条件を付けた。
「死ぬことは許さぬ。如何な事があろうと、必ず生き延びよ」
「は…」
「父上だけでなく、卿を失うとあっては、堪らぬ」
 主の言葉を、アグネスは噛み締めた。
「…有り難きお言葉にございます」
「さて」
皇女は鞘から剣を抜き、頭上に掲げる。
「頭を巡らす時は終わった。今は戦う時ぞ!」
 皇女の声に、皆の声が和する。

 オークが、ゴブリンが、卑しき種の者共が叫ぶ。
 人ならぬ、長い間虐げられてきた者たちの怨嗟にも似たその声が、幾重にも帝都の空を駆け抜ける中――
 燃え滾る焔を映して赤々とたちこめる煙霧の下で、長き年月を経て築き上げられてきた文明が脆くも崩れ去っていく。
 それが、幾度となく魔の軍勢を退けてきた「大陸の守護壁」、誉れ高き帝都リューンブルグの最期の姿であった。

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