幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 46
彼女達は元々は茨木側の妖怪であった。
今は‘姐さん’と呼ばれている女妖怪にまとめられ、この色街で娼婦をしている。
彼女達にとって娼婦という仕事はお金だけでなく、食料である人間の精気も吸い取ることができて、まさに天職ともいえた。
だが一月ぐらい前、『新生茨木軍』と名乗る者達の誘いで‘仕事’に行った仲間が数人、そのまま行方不明になっていたのである。
そして今日、『新生茨木の連中に声をかけられた。行ってくる』というメールを残して、姐さんの姿が見えなくなったのである。
「しょうがない……とりあえず皆仕事にもどって」
おそらく仲間内で姐さんの次に偉いのか、藍染の浴衣に下駄という涼しげな格好の女性が皆を解散させる。
「あの人なら、大丈夫だろうと思うけど……」
街灯にもたれかかり、メールのあった携帯電話を握り締める。
「よぉ、姉ちゃん」
そこに白いスーツにパンチパーマの男が声をかけてきた。
その様子を紅夜叉が物陰から見ていた。
一人裏通りをさ迷っていると、娼婦達の話から『新生茨木軍』という言葉が出てきた為、物陰に隠れて盗み聞きをしていたのだった。
「えへへ……お譲ちゃんなにやってグボッ!」」
後ろから声をかけてきた酔っ払い親父を、裏拳一発で沈黙させる。
「あいつらも新生茨木軍を探してるみたいだな……」
やがて、娼婦と男は近くにある看板も何も出ていない店に入っていく。
紅夜叉も後をつけて、中に入っていった。
開発の波に乗って建てられた物件でも使用目的によってはコスト削減でそれなりな建物もある。
この建物は天井の蛍光灯は剥き出しで壁はコンクリート剥き出しで所々ひびが走っていた。
事務所兼倉庫兼社員寮を改築しているようだが、生活臭所か人気が無い。
紅夜叉は袴の下から太股に括った小刀を解くと腰紐の後ろに差しなおした
その頃、浴衣の娼婦は男を一室に待たせ、物置のような部屋に入ってきた。
「はぁ……最近はマニアックな客が多いわね」
そして、一度大きく息を吸い精神を集中させると、段々と娼婦の背が低くなっていった。
女は八侘(やた)という名の、座敷童の一種であった。
元々は人間に友好的な妖怪であったが、ある事件により人間不信に陥り、200年前は茨木軍に身を置いていたのだった。
彼女は人間の願望を自分の体に取り込み、それに合わせて姿を変化させるという能力を持っている。