化け物の潜む島 1
まず目に飛び込んできたのは、これでもかというぐらいに澄み渡った真っ青な夏空だった。
高く上った太陽が肌をジリジリと焦がし、体から水分を蒸発させていく。
耳に届くのは定期的な波の音。ザブンと押し寄せては引いていくそれは、本来ならば見るものの心を落ち着けたであろう。
そう、彼女がこんな状況でなければ…
「うっ……」
うめき声を漏らして、砂浜に転がっていた少女……三枝 葵(さえぐさ あおい)が体を起こす。
彼女は夏休みに高校の友人たちと共に旅行に出掛け、船旅を楽しんでいた。
ところが、彼女たちが乗っていた船が謎のトラブルに見舞われ横転。葵は海へと投げ出されてしまったのだった。
救命胴衣を身につけていたために海へと沈むことはなかったが、葵一人では何もできず、徐々に体力も奪われて死を覚悟しながら気絶したが、潮の流れで運良く島へと流れ着いたようであった
「ここは……」
周囲の状況を見回し、呆然とする。
地平線の果てまで真っ青であり、他に島などは無いようであった。
ここが無人島かどうかは定かでないが、ゴミや木材などの漂流物などが流れ着き、放置されている点から、人が住んでいる可能性は絶望的かもしれない。
「うっ……」
「んっ……」
ふと、近くから少女のものと思われるうめき声が、葵の耳に届いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
周囲を見渡すと、二人の少女が横たわっていた。
一人は大人びた顔の大学生ぐらいの少女。白いワンピースを身にまとっており、身長は高く、手足もスラリとしていて細長い。それでいて、出るべき部分はキッチリと出ていることが服の上から見ても分かるような美人だった。
もう一人は葵よりも年下と思しき中学生くらいの少女。半袖にデニムのホットパンツを纏った露出の多い服装をしている。その目は未だに閉じられているが、あどけない顔立ちと年相応の未発達な肢体。スースーと可愛らしい寝息を立てている少女であった。
「しっかりしてください!!!」
葵は二人の元に駆け寄ると、その体に手をかけながら呼びかける。
二人とも葵のものと同じ救命胴衣を着ているところから見て、同じ船に乗っていた乗客なのだろう。
「んっ……ここは……」
「いててて……」
葵の声に反応したのか、二人が意識を取り戻した。
多少動きにぎこちなさが見られるものの、特に異常は無いようだった。
「あなたは……?」
「ここ、どこなんですか?」
意識を取り戻した二人は状況を把握しようとキョロキョロしながら葵に問いかける。
しかし、葵とて今の正確な状況を伝えられるわけではない。何しろ今目覚めたばかりなのだから。
「えっと、私は三枝 葵といいます。どうやら船が横転して、私たちは海に投げ出されたみたいです……ここにいる全員が同じ島に流れ着いたってことは、潮の流れに流されたのかも……」
「そう……」
「え、投げ出された……?じょ、冗談ですよね……?だって、こんなとこで、何もないのに、どうするんですかぁ……」
ある程度の現状を伝えると、二人に不安が走った。
幼く見える少女は取り乱してアタフタと慌てている。
静かに答えた大人びた少女は顔を伏せ、その目には不安の色が浮かんでいた。
「とりあえず、周囲を探索してみませんか?もしかしたら人が住んでるかもしれないし、私達の他にも流れ着いた人がいるかもしれません」
「そうね……ここにいても仕方がないものね」
「えぇ〜歩くのダルイですよぉ……」
といった具合に、正反対の言葉を口にしながらも二人は立ち上がろうとする。
もっとも、幼く見える少女が動いたのは葵ともう一人の少女が周囲の探索に出かけて一人になることを恐れたからであろうが。
「私の名前は板垣 沙織(いたがき さおり)よろしくね」
「板垣というと、あの?」
葵は名乗られた苗字に聞き覚えがあった。板垣というと、日本で知らない者はいないほどの大企業だ。彼女はその社長の娘ということだろう。
「これって私も名乗る流れですかぁ?え〜っと…河野 美咲(かわの みさき)で〜す」
「河野って……」
これまた葵にとっては聞き覚えのある名前だ。河野もまた、板垣と遜色ないほどの大企業である。