後始末な人生も悪くないよねって思った 4
「おい、運転中だぞ…」
「今は赤信号で止まってるから大丈夫でしょ?」
「でもなぁ…」
そっと手を置いただけなのに年下の男の子みたいにドギマギする凌ちゃん。
なんだよ、滅茶苦茶可愛いじゃんかよ。
青信号になったら車は再発進して、私は手を退ける。
途中コンビニでちょっとお買い物して、凌ちゃんのお家についた。
築30年は経っていそうな古びたアパート。
2階に上がる階段の手摺りが錆びていて、ところどころ赤茶色に変色している。
「もうちょっとマシな所にしたかったんだけど、何分先立つもんが無くてな…」
照れたように鼻頭をポリっと掻く凌ちゃん、恥部を見られた少年のようで、母性本能をくすぐられる。
「雰囲気あっていいと思うよ。変に小洒落たマンションなんかよりずっと好きだな。」
リモートワークが盛んになったせいで、最近はこんな辺鄙な田舎にもそんなマンションが多く建設されている。
「まぁ、中は外見よかちょっとはマシなんだぜ…」
カチャカチャと金属音を響かせガキを開ける凌ちゃん。
凌ちゃんの秘密の領域に潜入るようで、ちょっとドキドキしてしまう。
「ほい」
「わぁい、お邪魔しまーすっ♪」
凌ちゃんの言うとおり、お部屋の中は改装したのか、結構綺麗な感じ。凌ちゃんがやったのかな、それとも業者さん?
それにお部屋は綺麗に片付いてて掃除もされてるっぽい。
凌ちゃんって意外?としっかりしてるんだね。
「メシが出来るまではゆっくりしてな」
「私もなんか手伝うよ。私だって自炊してるんだもんねっ」
今はやらざるを得なくなったけど、両親共働き、何もしなかった兄とは違って小3くらいから料理のスキルはあるんだからね。エッヘン。
考えてみるとあの頃は幸せだったんだな…なんてセンチメンタルになってしまう。
お兄ちゃんのことだって大嫌いではあったのだけど、それも冷静に考えてみたら、あんな事件さえ起こさなけばお兄ちゃんだってごく普通の男子高校生に過ぎなかったのだ。
少なくとも家族の前では…
知りたくはなかったお兄ちゃんの別の側面…別の顔…
老若男女誰からも愛されたイケメンの生徒会長の裏の顔が公になって、1番ショックだったのはお父さんとお母さんだったんだと思う…
「また思い出してんのか?…過ぎたことだぞ…」
凌ちゃんが私の頭に手を置き、覗き込むように顔を近づけてくる…
【凌視点】
「そんなっ、そんにゃっ、ことっ、ないっ…」
小さな肩がフルフルと震えていた。
声は完全に涙声だった。
まったく喜怒哀楽がコロコロと変わる奴だと思う。
それはこんな小さい身体なのに背負わされた運命みたいなものがあまりにも大きすぎるからだろう。
「っ、く、ひっく」
「俺がメシ作ってやるから待ってろ。それまでに心を落ち着かせな」
俺の言葉にちょこんと腰を下ろした唯の背中にはちょっぴり哀愁が漂っていた。