僕らの天使 9
「おはよう!」
ボーっとして待っていたら、いつの間にか目の前にゆりかさんが立っていた。
「あ、おはよう」
ゆりかさんの私服姿、ずいぶん久しぶりに見た気がする。制服より、胸が目立つ。
「久しぶり、真野くん」
車の運転席からさくらさんが手を振る…何年ぶりだろう。お姉さん、という感じだったさくらさんはもうすっかり大人の雰囲気を漂わせていた。
このあとアーシャの家の近くまで車で行ってもらう。
いつ見ても立派な家の前に、よく見知った顔の女の子が立って待っている。
さくらさんが軽くクラクションを鳴らすとアーシャはぱあっと明るい表情で駆け寄ってきた。
どこかのお嬢様のような私服姿。その胸元はゆりかさん同様よく目立つし、小走りしてるだけでゆさゆさと揺れている。
運転席の斜め後ろ、僕の隣に腰掛けたアーシャに、さくらさんは向き直って話しかけた。
「ズドゥラーストゥブィティエ メニャ ザブートゥ サクラ ワケ ヤー ストゥデントゥカ オーチン プリヤットゥヌィ」
僕も、ロシア語の挨拶はちょっとは知っているが、こんなにスラスラとは出てこない。
「さくらさん、ロシア語話せるんですか?」
「大学の第二外国語で、ちょっとね」
「ありがとうございます。感激です。ゆりかさんのお姉さんがロシア語を話せるなんて…身近にいて嬉しいです」
「アーシャちゃんこそ、日本語上手ねぇ」
2人はすぐに打ち解けたようだ。そのまま車内はいろいろな話で盛り上がる。
話ももちろんだけど、シートベルトが作り出す所謂「パイスラ」に、僕の視線は持っていかれてしまう。
後部座席のアーシャもきちんとシートベルトしているので、三人が三人ともそんななのだ。
「真野くん、真野くん」
さくらさんの声。いけない、ボーっとしてしまっていた。
「真野くんはどこ行きたい?」
「えっ、アーシャの行きたいところは?」
「それは今話してたじゃん」
僕は、見てみたいところは、ある。
「僕は、H大を見たいです」
「真野くん、もしかしてH大志望なの?」
「いえ、そんな頭良くないですよ」