水泳部の陰陽 14
一瞬のようで、永遠のように長く感じられた。
これがファーストキス…その味は、甘いけど、あまりにもほろ苦い気分だ。
唇を離した青山さんは、僕に向かって微笑む。しかし、その頬にはうっすら涙が見えた。
「僕で、いいの…」
「茅野くんだから、いいの!」
そう言って、制服を脱ぐ青山さん。
下に身に着けていたのは…真新しそうな競泳水着。
濃い青の水着が青山さんの抜群のスタイルの身体にぴったりとフィットしている。
それは、ここを最初にのぞき見した時に佐崎さんが身に着けていたものと全く同じ。
「どうかな?」
「うん……いいと思う」
何がいいのか全く分からない。でも咄嗟に口にしてしまった。
「茅野くんの好きに、していいよ」
「本当に…」
「いいの。北野先生よりも、茅野くんがいいの」
……北野?
もしかして、青山さんも、すべて知っていたのか?
佐崎さんや、ほかの水泳部員が、北野に身体を捧げていたことを…
「ま、待ってよ、青山さん」
じりじり近づく青山さんを、僕はなんとか制した。
「僕も青山さんのことは好きだよ、でも、これはちょっと違うんじゃないかって思う…」
「違う…?」
青山さんは首を傾げた。
「僕も、はっきり言う。青山さんのことが好きだ。大好きだ。だから、青山さんのことを大事にしたいから、まずは、お互いのことを理解し合いたいんだ。青山さんが今しようとしてることは、すべて端折ってしまってるんだ」
「茅野くん…」
「だから、さ、まずは、その、付き合う、というか、そういうところから始めるべきだと思ったんだ」
「残念だわ…」
青山さんの表情が急に変わる。
「えっ…」
「私はね…水泳でもっと上を目指したいの。そのために北野抱かれる必要があるなら、自分を殺してでも抱かれるつもりなの」
「青山さん何を言って…」
「それでも初めては好きになった人とと思っていたけど…意気地なし…」
そう言うと青山さんは部屋を出て行ってしまった。