香港国際学園〜第二部〜 561
「いらっしゃい…あら、玄人君やん!」
関西弁で話す女性。年齢は二十歳前後か。
「こんにちは、凜さん」
「兄貴に用事?今、裏にいるんやけどね…兄貴〜、玄人君来たで!」
「いや今日は『普通』の買い物である。軍鶏を400kg、貰えるか?」
「O.K.!」
そこへ店の裏から巨漢がのっそりと現れた。
「よう、玄人…今は運んで欲しい物はないが…」
「NO!勇牙さん…だだの買い物であるよ」
「そうか…」
その時…
バンッ!
大きな音を起て、扉から転げるように入ってきた警備員姿の青年。
「勇牙さん!男宿に怪獣が!」
彼は若い警備員を無視して…長い総髪をなびかせながら、奥の冷蔵庫室へ向かった。
凛の制止も聞かず、警備員はズカズカと中に入る。
「男宿…俺達が生き抜いた『旧』香港国際学園だった場所じゃないっスか!!」
聞いているのかいないのか、勇牙は鉄鉤に吊されたシャモ肉の具合を確かめている。
「『今は』男宿だ…無法を許すが故、法の庇護は認めない…か。」
「そんなの『不良は勝手に殺し合え』とか抜かすクソ教頭の詭弁です!!
例え不良生徒相手でも俺達には学園の平和を預かる者としての意地が…」
冷蔵庫から出てゆく勇牙に追いすがる警備員。
…ぎらり…
勇牙の手元、うっすら脂と霜をこびりつかせた肉切り包丁が鈍色の輝きを見せた。
「ヒ!?」
警備員の全身が総毛立つ。
「勢いは良し…しかし君はまだ未熟!!」
勇牙が肉切り包丁の切っ先で示す先…窓の外には…浅倉組のベンツが、カノーヴァファミリーのキャデラックが…その他、不良グループのバイクや改造車が走り抜けて行く…間に合うかどうかも知らず。
「若い力に…任せてみようではないか?」
かつての香港国際学園の英雄。
「彼らにも意地がある…余計な介入は無用、刹那も甲良もわかっている筈だ。」
彼はカウンター脇のマナ板でシャモ肉を切り分けながら微笑んだが、その意味は若い警備員には理解し難い笑顔であったろう。
…今泉ジェロニモ…いや、今泉姉妹…いい教え子達を持ったではないか…
「ホイ!シャモ肉400g!!」
…若い力…再び男宿…
「フン…あのラリモトとかいうチンピラ…中々『粋』の解る男ではないか…。」
駆けながらごちる刀機。
「あれか…」
孤児院に辿り着いた刀機が目にしたのはエンビ服を着た金髪の生徒が庭先で子供達と戯れている姿であった…。
「うむ『怪獣が来るから避難しろ』などと子供らに不安を与えてはイカンな?」
刀機なりの『粋』なアイデアが彼女の脳内に電球マークを閃かせた…。
「おいっ!そこの執事っ!話がある!!」
「はぁ?」
何やら危険な匂いを悟り…わらわらとまとわり付く子供達をあやしつけ『中で遊んでてね〜』と下がらせる。
「え…着ぐるみ怪獣ショー?」
「うむ!わかるな!?」