陣陽学園〜Fight School〜 70
一ヶ月で出流は若者文化に一生懸命ついて行く事を強いられてるんだパパ程度にはパソコンやネットの扱いを覚えて見聞を広めている。
武道一色の世間知らずでドラえもんすら観たことの無かった彼も、新旧のガンダムやエヴァ程度の有名な作品に因んだジョークの一つ二つぐらいは理解出来るぐらいには成長した。
そして心はオンナ身体はオトコ上の方だけ工事済みの保健医、福山潤子を通じて教員向けセキュリティの掛かった領域の閲覧パスも幾つか取得している。
しかし戦闘記録やハメ撮り映像の類も含めて、八霧小夜子は影も形も出てこない、文書や写真といったアナログ媒体も同様だった。
どこか手の届かない所に居るのか、それとも小夜子自身が己の痕跡を消しているのか。
せめて一つでも手掛かりを、祈る様に出流は資料を漁る。
小夜子は元々が現在の学園というか顧客の好みでド真ん中ストライクなだけに、整形や精神分析といった記録にも姉の名は見当たらなかった。
「あー?もうっ!」
出流は苛立たしげに身悶え髪をかきむしってから溜め息一つついた。
肉体的には兎も角ヒステリックな部分の女性化はよろしくないと自重し深呼吸。
ふと撫で下ろした微乳、このペースだとあと一ヶ月で今よりカップ一つ二つ上ぐらいにはなるのだろうか。
折角だから『妹』らしいサイズにはなって欲しい、でもあまり大きくても困るかな、などと考えていて別の考えが浮かんで青ざめる。
『姉→兄』
よりにもよってまさか姉が男性化しているのではないか、そういう内容の資料も検索してみたが幸いにもソッチでのヒットはなかった。
安堵と同時に、やはり姉の手掛かり無しに愕然とする。
結局、福山女医の持っている権限で調べれる範囲は調べたが、これ以上はもっと上の権限を持つ者の許可がいると言う事のようだ。
無論、そんな権限のある者に人脈が全くあるわけも無く・・・
しかし、出流は山吹組なりの人脈なら生かせるかもしれない。
劣等に堕ちる前、山吹組面々から『困った時はコイツに会え』的に教えられた人脈がある。
この福山女医も幸乃の紹介で色々便宜を図って貰っていたし、他の人脈だってある。
美津江人脈でどうにか武器の算段はつきそうだし、武留亜人脈のお陰で小遣いなら十分ある。
あとはちらほら情報集めれそうな何人かには会った。
「さて、情報は歩いて集めるかな・・・」
まるでゲーム感覚でそう言った出流は保健室を後にする。
そして、ブレザーに身を包むと劣等科の中心部分へと向かう。
そこはまるで吉原遊郭のような建物の連なる華やかな場所。
ここにいるのは『客』の取れる劣等生徒のみである。
ハッキリ言ってここの方が待遇が良すぎて、ほぼ卒業後風俗一直線の風俗エリートコースと言った方がいいかもしれない。
出流も『客』を取る時はここを利用するが、まだランクの低い場所だ。
故に馴染みの場所ではあるが、目的はここでない。
その場所を抜け、鉄門に近い辺り・・・
少し薄汚い路地に多くの女子が立つ。
彼女達は遊郭にすら出入りできないレベルの底辺。
こうやって立って客を取る連中だ。
外から来た客が取れれば儲けもの・・・
しかし、大半は従業員や他の生徒達に身体を売る。
それこそ、その日の食費程度で股を開くのだ。
女子達の中には勿論、男の娘や男子もいるし、結構な数の妊婦もいる。
出流は周囲を注意深く見回りながら、とある妊婦少女に近づく。
その少女も出流に気づいたらしく声をかけてくる。
「あら、お嬢さん・・・『買って』くれるのかしら?」
「ええ、お願いします」
短いやり取りで少女は出流を路地裏の薄汚い長屋に招く。
彼女は市花の親友であり妊娠して堕ちたが、這い上がった市花とは逆にここに居着いてしまったクチだ。
この辺の立ちんぼ達の中で人望があるようで、いろんな情報が彼女の所に集まってくる。
髪を短く切り揃えた理知的な眼鏡っ娘、身重の腹を除けばやや細身で乳房も常人並み。
南風紀子、ポヤヤンとした天然の不思議ちゃん、常に微笑を絶やさず物静かで母性的な雰囲気は正に長屋の世話役であり『ママ』である。
同じ不思議ちゃんならSAN値ピンチで常時発狂の鋭利は見習って欲しいモノだ。
身重であろうとも口と尻は使える、時として妊婦マニアという独特な趣向の客に股を開く事もあるという。
市花が武術家とスパイを兼業したような一般に知られるイメージ通りの忍者であるのに対し、こちらの彼女は情報収集に特化した部類。
前に出流が彼女にどういう都合で劣等に居続けるのかと聞いてみた所『草もまた忍である』という、抽象的すぎてよく解らない答えではぐらかされてからは触れない事にしている。