陣陽学園〜Fight School〜 5
それを見て何か理解し血の気が引く思いがする出流・・・
「短小極太とか珍しい竿だったな・・・まぁ、皮被りでもいい逸物だと思う
ぞ」
女の声に出流は真っ赤になり股間を押さえる。
勿論童貞の出流だから、女に見せた経験も手淫された経験もない。
だから恥ずかしさは筆舌に尽くしがたいレベルである。
「なんてことするんだーーーーっっっ!!!」
叫ぶ出流を女はクスクスを笑いながら見る。
「全く面白い奴だ・・・『これぐらい』騒ぐに値しない学園に来てるのにな」
見た目は変わっても、彼女の本質はこうなのだろう・・・
そして、これこそが陣陽学園で生活していくと言う事なのだろう・・・
「まぁ、鉄斎と彦一の時は全力で拒否されたよ。」
「当たり前だ!」
「お前みたいに童貞で包茎って訳でもないのに。」
「うるせえよ!」
つーか誰だよそいつら…と言いかけて出流がさっき物色した二人分の制服、裏地にそんな名前があった。
多分昨日の二人、大柄な方が鉄斎、金髪男が彦一なのだろう。
そしてこのお嬢様宅に出入り、若しくは一緒に暮らしているのではないかと。
出流もひとしきり怒鳴って幾らか落ち着いたか、聞き流し半分だった話の流れからそうした状況が読めるようになっていた。
そしてこのお嬢様は、持ち物から名前を察するに『山吹純華(やまぶき すみか)』と言うらしい。
見た目と名前は一致しているが、中身は純でも華やかでもないなと出流が思ったとて罪はない。
と、言うか・・・
彼女はこの学園において、見た目で相手を判断するのは危険らしいと出流にも理解できるいい例かもしれない。
鉄斎と言う若い男は柔和な表情に似合わぬプロレスラー並みの筋肉質な身体に打たれ強さ。
彦一と言う金髪男の動きも只者ではなかった。
少なくとも自分の思っていた以上にこの陣陽学園は強者揃いであり・・・
ふと出流の脳裏に暫く会っていないここにいるはずの同級生の顔が浮かぶ。
それにもう一人・・・
出流が陣陽学園に転校する切っ掛けを作った人物。
理不尽に強かった2つ上の姉の顔も浮かんでくる。
最後に会ったのは2年ぐらい前だった気もするが・・・
記憶違いでなければ彼女の着ていた制服もブレザーだった気がする。
それを思いだし、一気に血の気が引く気がした。
そもそも出流が転校する気になったのも、姉から着た不可解なメールであった。
(姉ちゃん・・・)
出流の誕生日、日付けが変わった瞬間に送信されてきたそのメールは、前々から設定されていたのだろうか?と、今でも思う。
"Happy Birthday"の文字の横に、ピースマークの絵文字が笑っていた。
幼少時代から叱咤厳しい父の基、共に古流柔術を教え込まれてきた姉と弟だった・・
それは、小柄の出流にとって、血反吐が出るほどの辛いものではあったが、そんな中で、姉にはいつも助けられ、慰められ・・・見守られた。
出流にとって姉は、母親のように掛け替えのない存在であると言ってよかった。
ピースマークの何行か空いた後に、その不可解のメッセージはあった。
『出流・・陣陽学園の頭を・・それが私の願い・・』
姉はこのメールを最後に・・姿を消したのだ。
「用意はできたか?、行くぞ」
純華の声に出流は我に返り、遅れまじと慌ててついていく。
ドアから出ると、そこはマンションのような作り。
階段を降り玄関ホールまで来ると、ようやくここが入学説明の時に使われた学生寮らしいと出流にも理解できた。
確か学校敷地内に内寮が、敷地外に外寮があって、成績優秀者は外寮になるとか何とか・・・
そんな説明があった気もするが、純華の白い制服から察するに、これが陣陽学園の言う所の『成績優秀者』なのだろう。
多少キョロキョロと周囲を見渡しながら純華について行くと、すぐに陣陽学園が見えてくる。
かつての城跡に建てられた校舎は堀と石垣に囲まれ、白壁や櫓、天守閣が再現され、それ以外の建物も和風の外観に統一されている。
唯一の外に通じる道が大手門。
重厚な造りの櫓門は、本当に城に入るような感じであった。
「これが・・・陣陽学園・・・」
パンフで見て冗談かと思っていたが、学園という名の巨城を見て出流は口を閉じるのも忘れてしまっていた。