ギリギリすく〜と 1
俺の名前は、高坂猛(こうさか・たける)。
中学の時に交通事故で母さんを亡くし、それ以来父子家庭となって、4年の月日が流れた。
母さんのいなくなった生活にも慣れ、何時もの日常となった平日の朝の事だった。
「おい、親父、何時も言ってるけど飯食ってる時に新聞読むなよ。見ていてだらしがないぞ」
「む、すまん。つい癖でな。付いた習慣を直すのはなかなか難しくてな。それにしても、猛の料理の腕は素晴らしい。ちょっとした小料理屋でも開けそうな程だぞ」
「お世辞はいい。ていうか話し逸らすなよ、全く……」
「いや、お世辞じゃないんだがなぁ……」
母親を亡くして以来、猛は家事を一人でこなして来た。
最初は、父親の高坂勝(こうさか・まさる)も手伝ってはいたが、全く戦力にならなかった。
掃除をすれば、余計に散らかったり、洗濯をすれば、洗剤の目分量を無視して、平気で沢山入れたり、料理をさせてみれば、消し炭しか作れず、堪忍袋の緒が切れた猛に戦力外通告を言い渡されたのだ。
それでも、家では使い物にならないが、勝の勤める会社では、一流企業な上に結構重要なポジション(専務)に就くエリートサラリーマンである。
因みに、猛も母親が亡くなる以前は、家事のイロハなんて無かったが、参考書を読んだり、経験を積み重ねて行く内に、先の事情もあったが為に、メキメキと上達したのだ。
「そうだ猛、今度の日曜日予定とか入っているか?」
「特にないが?」
「そうか、実はなお前に会わせたい人物がいるんだ」
「なんだ突然?」
次の勝の言葉によって、猛は思わず気を失いかけた。
「非常に言い難かったんだが、俺は、再婚しようと考えている」
「……は!?今何て言った?」
聞き間違いかと思い、猛はもう一度訊ねた。
「だから、再婚しようと思っている」
「……な、なにぃーーー!!!?話しが唐突過ぎだって、オイ!いきなり言われても困るって……」
「猛は再婚に反対か?」
「いや、別に再婚自体には反対するつもりはない。あんたの人生なんだしな。俺が言いたいのはそういう事ではなく、話しが急過ぎるって言ってんだよ!」
「む、すまん。それにしても、猛は再婚に反対すると思ったんだがな……」
「あんたみたいな生活無能力者は誰か隣に居た方が丁度いいんだよ」
「貶されてないか?」
「本当の事だろう。まぁ、兎に角再婚には反対はしない。そうそう、母さんの墓前でちゃんと謝っておけよ?枕元に立たれ兼ねないからな」
「……ああ」
「それで、親父の再婚相手ってどういう人なんだ?」
これから、家族に成るのだろうから、まずその人物の人となりを理解しなくてはならない。
「それは、会ってからのお楽しみって事で」
「もの凄く納得がいかんのだが」
「じゃあ、ちょっとだけ。喜べ、非常に綺麗な人だぞ」
「それだけ?」
「それだけ。後は後日自分の目で確かめて見る事だ」