がくにん 64
三組所属、サッカー部レギュラー山手信友(ヤマテノブトモ)が早々、ボールを捕らえた。
彼の持ち場は中間ポジション――ボランチ。守備的なミッドフィルダーである。
残念ながら三組にはサッカー部は制限人数ギリギリしかおらず、その中には攻撃陣のレギュラーがいなかった。
だが、それでいい、と信友は思っている。
なぜなら、得点源はいるからだ。しかも、強力な、いますぐにでもサッカー部へ入部して欲しいくらいの逸材が――。
クラスメイト、山手信友が蹴った高かパスは見事、影介の目の前へと落ちた。
影介のポジションはフォワード。要は最前線である。
バウンドしたボールを胸で受け、いなし、相手ゴールへと構えた。
サッカーボールの扱いなど多種多様な形状の武器、暗器を使いこなす影介にとっては朝飯前だ。
ゴールまで6、7m。
まだ、相手のディフェンスとは距離がある。
「…………っふ!」
念のため、一度、フェイントをいれてシュートを放った。
サッカー部から習った回転を殺したシュートはクンッと宙に弧を描く。
付け焼き刃にしてはなかなかのモノだと自負していた。
しかし、
――タンッ!
相手のキーパーにセーブされてしまった。
「くっ、上手くシュート出来たと思ったのに」
双樹が見てる手前もあり派手に悔しがる事はないがポツリと呟く影介。
「気にするな。あいつは控えだけどウチのサッカー部のレギュラーだ、簡単に点を取れるとは思ってないさ」
……影介が声を掛けてもらっているその最中、ピッチの外にて小平は確信していた。
(やはりキーマンは宗像か……。あまり気は進まないが、宗像が止められないなら戦い方を変えよう……)
流れは変わらず、左右に正確なパスを長短織り交ぜ展開する山手を中心に三組が攻め続け、七組がカウンターを狙う構図が続く。
前半も残り5分となった頃だろうか、プレーが切れたタイミングで七組のサッカー部メンバーである霧島が小平に呼ばれ何やら指示を受けていた。
三組スローインで再開された瞬間、七組の奇策が牙を三組に向いた。