がくにん 46
(さて…どうするかな。教室に入れば…宗像影介だとバレる?訳だし、そうすれば学園全体に知れ渡るまで半日もかからないしな〜…すると双樹のファンやら親衛隊やらに命を狙われかねない。まぁ、素人に狙われたって恐かないけど…)
と思考が収束した影介は別の件を考え始めた。
それは昨晩に起こった、久田邸の火事の事である。影介がその事件を知ったのは今朝、エントランスで戒と会った時であった。
制服に着替えた影介と双樹は、人気が無いことを確認しエレベーターへ乗った。
エレベーターが一階へ着く。この早朝練習の生徒には遅く、通常の登校には早すぎる時間帯は、人に会う事は滅多にないだろう。
後は真っ直ぐエントランスを突っ切れば、双樹が男子寮にいた事を隠蔽できる。胸を撫で下ろした影介は双樹の手を引き、任務を完遂しようとした。
エレベーターの扉が開くと同時に身を出した影介は、扉の前に立ったいた男にぶつかってしまった。影介と双樹の間に緊張が走る。
「…やぁ、宗像君」
影介より頭一つ大きな影が穏やかに挨拶をしてきた。
「!……酸漿さん…お、おはよう…」
戒が今の自分に気付いた事に驚きながらも、影介は恐る恐る素の話し方で挨拶をした。
「ええ、逢坂さんもおはよう。いい天気だね」
「…おはよう、ございます。宗像君…」
双樹はとっさに顔を伏せたが、それでバレない訳もなく見破られ、しどろもどろ戒に挨拶を返す。
戒は日課の新聞を読み終わり、自室に帰るところであった。
双樹は戒からの追求を覚悟するが、付き合いのある影介は奴の性格ならば何も聞かないであろう事は十分、予測できた。
安心した影介は、自分との衝突で戒が落とした三部の新聞を拾おうとする。
全国で販売されている日帝新聞、主に県内で購読される曙瓦版、そしてよく分からない英字新聞であった。
内、影介は曙瓦版の第一面に目が止まった。
「何だ?これはっ…」
「知らないのかい宗像君…これは新聞、特に地方紙と呼ばれている……」
「じゃなくてっ!…これっ」
「ああ、久田邸にて救出されたこの長男は葵坂学園の生徒会長だったな、確か…」
影介は記事を読んでいく。
「興味があるようでしたら差し上げよう。あぁ、そういえば宗像君…昨日、部活が終わる頃まで鼎さんが君を捜してたようだがね……ではまた後ほど…」
エレベーターの扉が閉まり二人きりになった影介は双樹と共に寮を出て、現在に至る。
事の概要だけでも知りたかったが、双樹をいつまでも男子寮に止まらせる訳にもいかない。
(まぁ…理事長あたりが手を回したんだろうけどな…後で聞いてみるか……しかし、瑪瑙の事…すっかり忘れていたな…)