更紗百人斬り! 20
こうなると、試し斬りをしたくなってしまうのが人間の性というか私の性分。
明日は、放課後に学校の体育館でバスケ部の試合が行われるはず。
甲武信君の応援がてら、一勝負行きますか!
「よーし、かかってこい!」
私は息巻いてベッドに飛び込む。しかし天井を見ていると、ふと冷静になる自分がいるのに気付いた。
自分は、今は挑戦する立場なんだと。相手を嘗めてかかってはいけない。
以前の私なら、油断してまた同じ轍を踏んでいたかも知れない……私も成長したのかな。
「絶対負けないから……」
私は明日の対決に備え、瞳を閉じた。
夢にまどろんでいく中、気のせいかママに抱かれているような優しく温かい心地がした。
*
翌日、放課後の教室。
「さ〜らさ!」
「きゃっ?!」
私を呼ぶ声と共に、背中に受けた衝撃で私はつんのめった。
振り向いた先に居たのは黒髪ショートカットの女生徒、友人の日下部小春(くさかべこはる)である。
中学の時からの付き合いで、ずーっと同じクラスという腐れ縁。ま、悪いコじゃないけど……
「で、何の用よ。小春」
少しむくれた顔で小春を見遣ると、小春はいやに嬉しそうな表情をしてこちらを見ていた。
「今日、バスケ部の試合だよね。彼の応援、行くんでしょ?」
小春の言う彼というのは、甲武信君の事。表向き、私と甲武信君は付き合ってるって事になってるのよね。
甲武信君は独占欲が強いから、恋人宣言しときたかったみたい。ま、若いっていうか可愛いっていうか。
美男美女カップル誕生!って感じで、学校中ちょっとした話題になっちゃって、少しやりにくくなったんだよね。
「うん、まぁね」
私が肯定し頭を掻く仕草をすると、小春は何故か得意気に腕を組みつつ、うんうんと頷いた。
「だよねー、更紗にもようやく春が来たんだもんね! あぁカップルはいいなぁ〜」
両手を握り合わせながら瞳を輝かせる小春を尻目に、私は足早に教室を出た。
小春の要らぬ世話焼きが、私には少し鬱陶しい。
「んじゃね、小春。バーイ」
ビシッと二本指でポーズを決め、私は体育館目指し廊下をダッシュした。
ワンテンポ遅れて追いかけてくるであろう小春を残して。
「あ、あれ? 更紗?」
*
数十分後、体育館。
「きゃー! 甲武信君がんばってー!」
「橘さぁーん!」
試合時間まであとわずか、イケメン揃いの我が校バスケ部に、黄色い声援が送られていた。
私は二階の応援エリアから、甲武信君を見ていた。
バスケ部の面々が円陣を組む中、頭一つ小さいのが彼だ。身長は私とほとんど同じくらい。
私が笑顔を作り小さく手を振ると、私に気付いた甲武信君は力強く腕を突き出し、ガッツポーズをして見せた。
その時彼の近くに居た橘真人が私に向けたいやらしい笑みにも、私はちゃんと気付いていた。