人生をやり直すために必要なもの 5
「うん、実はね、今度、施設のみんなでそこの海で遊ばないかって話をしててね」
杏里さんが言う。
「へぇー、いいですねぇ」
「…あぁ、でも…何か波がいつもより、ってかめっちゃ高くないですか?」
澪さんが窓の外を見て怪訝そうな表情になる。
「うん、今は台風が接近中」
「不味いですって」
あっさり言ってしまう杏里さんとそれに突っ込む澪さん。
「でも、台風はこっちには近づかないし週末は晴れが続きますね」
スマホで天気予報を調べてみた。
「そうそう。だから週末にって計画してるんだ」
杏里さんが胸を張る。
この施設にいる子達は、事情あって幼い頃に親と離れ離れになった子が多い。
そのため、僕や澪さん、美晴ちゃんはここに通っている中では年長の部類なのだ。
「海ですかぁ、良いですねぇ」
そう言ったのは美晴ちゃん。
「水着着ましょうかぁ」
そう続ける。
…いや、澪さんの話を聞くと、君が水着ってのは…ちょっと危険?ではないか?
「あはは、別に泳ぐのが目的じゃないけど、持って行きたいなら好きにするといいよ」
杏里さんは知ってか知らずか、笑って返す。
「うふふ、わかりましたぁ」
美晴ちゃんの笑顔が眩しい。
…しかし、澪さんの言う傷跡ってのも気になるが。
そんなこんなで、今日のところは解散となる。
さて帰ろう、皆さんに挨拶しようと思ったとき、スマホが振動する。
「…母さんか」
何だろうと思ってメールを開くと
『悪いけど、今日他の場所でお泊りとか出来ない?』
…いったいどうしたというのだろう。
どうかしたの?と送り返すと
『遼平のことを良く思わない兄夫婦が今夜来るの…』
…母さんの兄、伯父さんとはあまり会った記憶がないのだけど、そうだったのか…
母さんからのメールを受け、杏里さんに相談してみる。
「急で申し訳ないんですけど、今日、他で泊まるところを…」
「それだったら、私のところに来ると良いよ」
杏里さんが反応する前に、澪さんが言った。
「えっと、いいの?大丈夫なの?」
澪さんだけじゃなくて、美晴ちゃんもいるんでしょ?2人部屋を3人で使うってちょっと苦しいような気もするんだけど。
「えっ、遼平さんお泊まりするんですか?」
美晴ちゃんが言う。
わあ、瞳キラキラさせてるし…断れないじゃん。
「2人が使ってる部屋は広いから、御坂くんが来ても問題ないと思うよ」
杏里さんも言う。