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人生をやり直すために必要なもの
官能リレー小説 - ラブコメ

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人生をやり直すために必要なもの 17

 澪さんは美晴ちゃんの肩に手を置く。

「言わなくていいよ。美晴ちゃんは悪くない、悪くないよ」
 美晴ちゃんは少し落ち着き、苦しさを吐き出すようにぽつりぽつりと話し続けた。

「将実…弟は…もうきっかけは覚えていない…多分些細なこと…で殴られ…殴られ続けて…あれから、今も病院のベッドで…」

 その後は、美晴ちゃんのすすり泣く声だけが部屋の中に流れた。
 僕の体が動いたのは、それに耐えられなかったからかもしれない。
 
 コポコポ…という電気ポットの音が、聞こえてくる泣き声に重なる。
 粉末ココアを入れたマグカップにお湯を注ぎ込んでいても、美晴ちゃんの無念、悲しみが痛いほど伝わってくる。
 
「美晴ちゃん。何もできないけど、これ…」
「うん…」

 澪さんの胸の中で泣き続けていた美晴ちゃんが僕の声に気づいて頭を上げた。
 泣きはらしたその顔は、どうしようもないほど深い後悔と、自責の念に暗く彩られ。
 僕は自分が酷い目に遭っただけだったけど、自分が虐待されただけでなくて弟さんを助けられなかった美晴ちゃん。
 彼女が抱えた苦しみは想像しきれないけれど、美晴ちゃんの顔を見ているだけでも僕の心は、締め付けられる思いだった。
 
 美晴ちゃんは、ココアを飲み終えると、作ったような笑顔で
 「聞いて下さってありがとうごさいます。なんか、起こしてしまったみたいでごめんなさい。おやすみなさい」
 といってふとんに入っていった。
 しかし、そんな心の状況で美晴ちゃんがすぐに眠りに戻れるわけではないだろうと思った。澪ちゃんもそう思ったようで、自らもふとんに入った後
 「海行ったら何しよう?」
 とか努めて楽しい話をした。
 僕も可能な限りそうした。
 みんな、何かつらい思い出を抱えてる。
 御影さんのように辛さの原因になった人を倒してしまえた人もいれば、弟さんが怪我に倒れた美晴ちゃんのように今も悲しみが続いてる人もいる。
 僕は…僕自身さえ立ち直ればどこか別の普通の、今までに縁が無かった学校に行けば、普通の高校生活に戻れたり大学に入れるのかもしれない。
 でも、美晴ちゃんや澪さんを置いていくには…
 
 「澪さんって、沖縄で写真集撮ってましたよね。私、沖縄って行ったことないんです。どんなところでしたか?」
 「本土とはちょっと空気や時間の流れ方が違うなあ。やっぱり南国って感じ。でも、撮影スケジュールが詰まっててあまり観光はできなかったの」

 いつしか澪さんと美晴ちゃんは、澪さんの写真集の話をしていた。

 「二つの島に行ったんだ」
 澪さんはその島の名前を言った。一つはすぐに思い浮かぶ島だったが、もう一つは、にわかにはどのあたりにあるのか思いつかない島だった。
 「…島は、飛行機が無くて船でしか行けなくて時間かかるから事務所としてはあんまり入れたくなかったらしいけど、監督が是非、って言って入った…できたらあそこでのんびりしたかったな」
 澪さんはそこのことを、自転車でまわれる小さい島、と説明し、サトウキビ畑とか、何気ない建物とか、何てことの無い海岸とか、撮影でまわっていったんだ、よのうなことを語った。

 そうして、澪さんは窓の方を見た。
 「海楽しみだね。天気悪くならないといいな」

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