人生をやり直すために必要なもの 16
「う、うーん…」
僕と澪さんはびくりとして同時に声の方向を見た。
美晴さんがもぞもぞと動き始めていた。
僕たちはどちらかということもなく急いで服を着た。
そしてさっきお菓子を食べていた態勢に戻った。
とりあえずお菓子を食べながら、僕たちはお互いに様子を探りあうように視線を向けあっている。
時々視線がぶつかっちゃって…
「あ…」
「あっ…」
気恥ずかしさを感じながら視線を外す。澪さんも同じみたいだ。もぐもぐとお菓子を食べる音と、美晴ちゃんの静かな寝息。それだけが部屋の中に静かに流れる。
でも、そうしているうちに何か聞こえてきた。
「……うう……やだ……」
澪さんも美晴さんのほうを見ては僕に顔を向けてくる。
考えていたことは同じみたいだ。
「もしかして美晴ちゃん…」
「…めて…お父さん…」
「間違いない。悪夢を見てる」
僕たちは互いの顔を見て頷きあった。美晴ちゃんは辛そうに顔をゆがめている。
「お母さん……やめてよ……」
目を閉じたままで、辛そうな言葉を紡いでいた。
両親に酷い目に遭わされているのだろうか。
「将実……そんな…」
「まさみって…誰だろう…」
僕は思わず口にしてしまう。
「お姉さんとか妹さんとかなのかなあ…美晴ちゃんの家族のことって、実は一度も話してくれないの」
「あんなつらそうなら、思い出すのもいやだろうね」
美晴ちゃんは、薄暗い中でもわかるくらいに寝汗をびっしょりかいていた。
「ううっ…ううっ、助け…て」
そこで、美晴ちゃんは、目を開いた。
「また、あの時の…」
かろうじて聞こえる程度の、小さな声。底知れない悲しみを湛えたその顔に、一粒の涙。
僕は何も言えないで美晴ちゃんを静かにみていた。
「澪さん、遼平さん…」
「ううん、良いのよ。美晴ちゃん」
やがて僕たちに気づいた美晴ちゃん。静かに側に寄った澪さんは、そっと優しく慈母のように語り掛けて、美晴ちゃんのおでこを撫でてあげた。
「……………また…みちゃった。弟を……助けられなかった、あの日の事を…」
「駄目だよね、私…お姉ちゃんなのに、将実の事、助けら…う…」
そこまでをぽつり、ぽつりと話したところで美晴ちゃんの声が嗚咽にかわる。