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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 15

紗英はジェイエクスプレスのレース前まで、ある過去の出来事を思い出し、不安に苛まれていた。


今から3年前―
碧が黒崎厩舎にやってくる直前にこの府中で行われたフェブラリーステークス。
フランシードールという地方馬がここに参戦していた。
牝馬ながら中央の強豪相手に帝王賞や東京大賞典でも善戦し、地方では敵なしだった「砂の女帝」。
ここでも色気を持っていた陣営は結果次第でドバイ遠征を目論んでいた。

フランシードールはハイペースの2番手をぴったり追走し直線で仕掛けのタイミングを待った。
そして満を持して抜け出そうとした瞬間……

彼女の右前脚が砕け散った。

予後不良・・・
最悪の結果だった。

確かに最悪な怪我であるが、ある意味競馬につきまとう宿命でもある。
競馬が始まって以来、それで命を断たれた名馬は数多い。
しかし、だからと言って競馬関係者が平静でいれる訳ではない。
特にフランシードールに関しては、地方競馬関係者の執念の結晶だっただけに、そのショックは計り知れなかったのだ。


中央と地方の交流競走が始まった時、地方競馬関係者はようやく陽の当たる場所に出れる事を喜ぶものが多かった。
今まで殆どの重賞への参加が閉ざされていたが、これで大手を振って参加できる。
そして地方競馬に参加してくる中央馬は、地方競馬の活性化に繋がるだろう・・・
そんな青写真は直ぐに崩れ去った。

中央の重賞は分厚い壁に跳ね返され、地方の重賞は中央馬の草刈り場に・・・
つまり、不遇な中央のダート馬と二戦級の馬の稼ぎ場となってしまった訳だ。

ただ地方もだまってやられていた訳でない。
貪欲な調教師達は調教方針から見直し、馬主達も良血馬を求める。
騎手達は更に貪欲に勝利を求め、中央馬をホームグランドでは跳ね返す事も増えてきた。

そんな中でデビューしたのがフランシードールだった。
地方待望の良血にして、地方最強の調教師と騎手がコンビを組んだ。
牝馬ながら3歳時から牡馬と渡り合う。
古馬となると帝王賞で中央馬と互角に渡り合い、南部杯では中央馬を退け勝利。
JBCクラシックでは牡馬を負かし連勝。
中央参戦したチャンピオンカップでは不利がありながら4着。
そして東京大賞典では猛追の2着。
年が開けて、陣営が満を持して送り出したのがフェブラリーステークスだった。

当日フランシードールの体調は抜群だった。
本命はチャンピオンカップと東京大賞典でフランシードールを破った中央馬ミョルニル。
ハイペースの逃げで他馬を潰すレースをするこの馬は、くしくもヴィングトールの半兄にあたる。

レースは圧巻だった。
ハイペースで逃げるミョルニルをフランシードールが追走。
直線でも脚が衰える事無く3馬身差で勝利。
まさしく雷神の鎚の名が相応しい勝利だった。

そして、そのレース内容とフランシードールの不幸は、地方競馬関係者を消沈させるに十分だった。

一方でミョルニルの方はフェブラリーステークス勝利の後ドバイに遠征。
ドバイワールドカップでも当時のアメリカ最強馬に食らいつく走りを見せて僅差の2着。
国内に戻れば最強の名のまま昨年暮れの東京大賞典を制した後引退。
今年からは種牡馬として悠々自適な生活を送っている。

あれから3年、地方競馬のスター候補として現れたジェイエクスプレスとニューヒロイン・碧…そのライバルとして立ちはだかるのが名馬ミョルニルの弟というのが、また因縁めいている感じがして、ファンはたまらない気持ちであろう。

その上、芝では善戦以上はできず、3歳秋からダートに活路を見いだしたミョルニルと違い、父に三冠馬を持つヴィングトールは既に兄以上の大器と言われていた。
因縁にしては、余りに過酷であった。

「おつかれ、美波・・・あの子の様子はどうかしら?」
「ケロッとしてるわ・・・カイバもペロッと食べたしね」

府中の馬房でレース後の様子を確かめにきた紗英はホッと胸を撫で下ろす。
ジェイエクスプレスは人間の心配事など気にする事無く、いつも通り過ごしてるようだ。
この図太さに助けられた気分になる。

「オーナーは大丈夫でした?」
「御台グループに自慢され倒しておかんむりだったわ・・・お陰で年末も中央参戦よ」

御台グループは日本有数の大牧場を持つオーナーブリーダーであり、中央競馬を長らく牽引してきている重鎮だ。
余裕の自慢なのだろう。
故に温厚な樹里が珍しいぐらいに憤っていた。
怒りに任せてジェイエクスプレスのクラシック登録までしてしまったものだから、紗英も苦笑するしかなかった。

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