淫蕩王伝―再誕― 33
「なんだか、すごい魔力が手に流れて・・・・えっ?!」
見れば、その村人の顔からは青い斑点が消えていた。
「お・・・おおっ?!話せる・・・・・体が動く!動くぞ!!!」
「な、なんと・・・・・」
村人もオルトンも驚いている。
だが、一番驚いているのはセーラだった。
(今のはまさか・・・・・・)
「どうした?」
「どうしたの?」
村人の声を聞きつけて、豊とエリカも神殿内に飛び込んできた。
「やったぞ!治ったんだ!!!ありがとう!お嬢ちゃん!ありがとう!」
その男は、セーラの手を取って喜んでいた。
「お、おめでとうございます!!」
「あ、そうだ!俺の家族はどうなってる!みんなを治してやってくれ!」
急き立てるように、その男は言った。
(とにかく、治さなくちゃ!!)
「偉大なるエイリアよ、癒しの奇跡を与えたまえ・・・」
「やった!治った!綺麗に斑点が消えた!!」
「私助かったの?死なずに済んだの??」
「わしゃ助かったんじゃ!やったぞい!!」
セーラが治癒魔法を施す度、一人、また一人と治ってゆく。
ありえないような出来事に、豊もエリカもオルトンも、言葉もなく事態を見ていた。
(セーラちゃんのあの魔力の急上昇って、一体何をしたのかしら・・・・・まさか!)
脳裏に、朝食時のセーラと豊の様子が思い浮かぶ。
何かを察したようで、エリカは豊を見つめていた。
「もうだめかと思いました。本当に、ありがとうございます。それにしても、王様も素早く救援を差し向けてくれましたね。」
セーラの手を取って感謝の意を示しているのは、リュフェス村の村長のブレイズである。彼もかろうじて助かった1人だった。
「それなんですけど、その・・・」
エリカは言いにくそうに、途中で埋葬したハンター達の遺品を見せた。
「これは彼らの・・・・・どういうことです。」
怪訝な顔になる村長。
「実は僕たちがこの村に来る途中で、あの方たちは既に息絶えていたんです。モンスターに捕食されたようでした。」
答えたのは豊だった。
「ではなぜあなたたちはこの村に?」
村長の問いにエリカは。
「完全な連絡途絶で、要調査ということで冒険者ギルドに依頼が回ったの。私は政府に雇われて一緒に調べに来たんだけどね。やることはまだあるわ。亡くなった方の埋葬と、私は今回の病気の最終報告。」
(これはユタカ君とセーラちゃんを調べたいわね。ああ、うずうずするわ。)
セーラは村人に感謝され、「聖女様だ。」「ありがたやありがたや。」「握手してください。」などと村人に囲まれて、照れ笑いを浮かべていた。
(よかった。私、みなさんを救えたんだ・・・・。ユタカさん、エイリア様、ありがとうございます。)
「四割もの村人が亡くなったのか・・・・。」
リュフェス村のボグザ神殿の司祭であるカールが、呻くように言う。
ジーク達の手で焼かれた、村人たちの亡骸を前にしての言葉である。
「皆、勇敢で気のいい仲間たちだった。一緒に森を切り開き、畑を耕し、獲物を狩った。我が力及ばず、助けられなくて済まなかった・・・・。戦神ボグザよ、彼らが勇士の野にて永遠の喜びを賜らんことを・・・・」
こうして、カール達神官4名の手でようやく葬儀が行われ、エルプテオ病で亡くなった村人たちは生き残った村人によって埋葬された。
豊もシャベルを振るって墓穴を掘る。
治療の役に立てなかった分、せめて何かしてあげたかったのだ。
エリカは葬式に列席した後、報告書を書くと言って部屋に籠っていた。
葬式の翌日。ふと、エリカが言った。
「ああ、早く戻りたいわ。報告しないといけないのに。」
(早く家に帰ってユタカ君とセーラちゃんを調べたいのに・・・・)
エリカは他の皆から見ると、妙にじれている気がした。
豊は答えながら思った。
「皆さんが戻ってくるまで、待つしかないですね。」
(エリカさん、そんなに帰りたいのかな・・・・怖い病気が出たから無理もないとは思うけど。)
「再発者が出なければいいんですけど・・・」
セーラが不安げに言った。
「出ないことを祈ろう。」と豊は答え、セーラは頷いた。
「ところで」
とエリカが切り出し、
「ユタカ君とセーラちゃん、この一件が無事片付いたらうちの塔まで来てくれない?ちょっと、協力してほしいことがあるの。」