ルパン三世・不二子の受難 20
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『エピローグ』
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「…あ〜あ、こんなできそこないの薬なんかのために、ヒドイめにあっちゃったワ」
腕の中で息を吹き返したまま眠っている少年を床の上にそっと寝かせながら、不二子はボヤくのだった。
「…あ、アンタ……」
と口を開きかけたカオルを振り返りもせず手錠をはずし、破れた衣服をどうにか整えながら、
「…カオルちゃんは、こんなオンナになっちゃダメよ?
…ちゃんと恋をして、自分のために命を投げ出してくれるような相手といっしょに、(…と、眠るヨシユキ少年をチラと見つめて、)ケンカしながらでも楽しく生きて…
…いつかかならず、そのひとのそばで死になさい」
そう静かに言い捨て、部屋の隅に転がっていたヒールをつま先に突っかけると、ツカツカと地下室を去ってゆく。
(そんな当たり前のことが出来ずに、気の遠くなるほどの時間を生きちゃってる、アタシがいうセリフじゃないケドね?)
心の中で不二子がつぶやく。
「…待って……せめて、コイツに、ヨッシー……ヨシユキに、お別れを」
彼女の背中にカオルの言葉がなげかけられたが、
「バカね」
コンクリートの階段を上る不二子の足は止まることはなかった。
「アタシのことなんかいいから、アタシがいなくなってから、その子を起こしてあげて。
…王子様の眠りを覚ますのは、清らかな幼馴染の、お姫様のキスじゃなきゃ、ね?」
呆然と見送るしかなかったカオルの耳に、遠ざかるオートバイの駆動音が聞こえたのは、すぐ後だった。
外はすっかり夕暮れをむかえていた。
如月邸の向かいの家の前に、宅配業者の車がウインカーを点滅させて路上駐車している。
『♪ダーダーディーラーーー…ダ・ダヴァダ・ダヴァダ……ダーダヴァダヴァダヴァダヴァダ・ダヴァダ…』
配達を終えて出てきた青と白のボーダー柄の制服の若者と、停めた車の運転席から流れてくる、もの悲しいあのスキャットに送られて、不二子はどこへともなく走り去っていったのだった…。
…不二子の行方は、だれも知らない。
〜Fin〜