月野うさぎとプリンスデマンド 32
デマンドはヘアサロンを出たと同時に美容師Aはうさぎにヘアカタログを見せた。
「ヘアカットが初めてでしたら、襟足を少し出したショートヘアではいかがでしょうか?」
「そうね…。じゃあ、そうしようかな」
「かしこまりました」
美容師Aはうさぎの髪の毛に何ヶ所かヘアクリップを留めていく。
「…ねぇ、本当にあたしの髪ってきれい?」
「はい。以前行っていた美容師の店長さんの言う通り、本当にきれいな髪の毛でございます。…失礼いたします」
「え?」
美容師Aはうさぎの髪の毛の一部をカラーゴムで縛った。
「今縛った髪を切りますね」
「…はい」
美容師Aは縛ったうさぎの髪の毛に鋏を入れ、その髪の毛をうさぎに見せた。
「これがセレニティの髪の毛でございます」
「本当だ…。(まもちゃんはあたしの髪の毛に触れて、香りを感じてくれた…。こんな汚れた体も髪の毛も触れていいわけがないの…。あたしのことを『お団子頭』と言ってくれていた頃が懐かしい…!」
うさぎの目から涙がこぼれ落ちた。
「どうなさいましたか?少し休みましょうか?」
「…ううん、大丈夫。ばっさり切ってちょうだい」
「かしこまりました。前髪を切りますね」
美容師Aはうさぎの前髪を櫛で梳かし、眉にかからない程度に鋏を入れた。
セーラームーンこと月野うさぎのおでこの内巻きカールはなくなった。
「前髪はこのような感じでよろしいでしょうか?」
「…はい、続けてください。」
「かしこまりました」
美容師Aは後ろ髪をどんどん切っていくと同時にうさぎの涙が溢れて止まらなかった。
「(まもちゃん…。ごめんなさい!)」
それから10分ほど経ち、うさぎは泣き疲れてしまったらしい。
美容師Aはドレッサーにあるドライヤーを取り出した。
「髪の毛、乾かしていきますね」
「はい…」
美容師Aはうさぎの髪の毛を乾かしていく。
「(なんか…、さっきまでのロングヘアの時と比べて軽くなった…。亜美ちゃんと変わらないくらいの長さかな…)」
うさぎは亜美と同じショートヘアになったことで少し違和感があった。
「ロングヘアからショートヘアにした時、最初は慣れないと思いますが次第に慣れていくと思います」
「…デマンドはなんて言うかな。『似合う』って言ってくれるかな…」
「プリンスはお優しい方なので大丈夫ですよ。プリンセス」
「…あたしのこと、さっきみたいにセレニティって普通に呼んでほしいな。…おかしいよね、プリンセスって呼ばれるのが苦手なプリンセスがいるなんて」
「そんなことないですよ。内心では苦手と思っている方もいらっしゃると思いますよ」
美容師Aはドライヤーを止めてうさぎの肩にのせていたタオルとカットクロスを外した。
うさぎに角型バックミラーを渡してスタイリングチェアを回した。
「後ろはこのような感じです」
「うん、ありがとう」
「では、ヘアカット終了です。お疲れ様でした」
「セレニティ、よく似合っているぞ」
うさぎは声がする方向に振り向いたら、デマンドは少し早く戻っていた。
「デマンド!?」
「お帰りなさいませ、プリンス」
「ご苦労だった。セレニティには傷一つ付けていないだろうな?」
「はい、もちろんでございます」
美容師Bはうさぎ達と話をしている箒と塵取りを持って来た。
「プリンス。お待たせして申し訳ありませんでした。今すぐ片付けます」
美容師Bはうさぎの長い髪の毛を片付けた。
うさぎは切ってもらった自分の髪の毛をじっと見つめている。
「(あたしの髪の毛…。あんなに長かったんだ…)」
うさぎは立ち上がってデマンドの所に近づいた。
「本当に…似合ってる?」
「ああ、本当に似合っている。セレニティ。早速、居住区に向かうとしよう」
「うん…」
「行ってらっしゃいませ」
デマンドとうさぎはヘアサロンを後にした。
「…ねぇ、デマンド。居住区までどうやって行くの?」
「心配はいらない。お前がヘアカットしてもらっている最中に王族専用の車を城の前に待たせているから、それで居住区へ向かう」
デマンドはうさぎの手を握った。
「(え…?)」
「居住区に早く向かいたいのだろう?」
「う、うん」
「では走って向かうぞ!」
デマンドとうさぎは手をつないだ状態で走った。
「(なんか…。こうやって男の人と手をつなぐのって久しぶり…)」
再び衛のことが頭に浮かんだ。
「(まもちゃん…!)」
「あれだ、セレニティ」
城の前に車が地面より少し浮いた状態になっていて、運転手が外で待っていた。
「お待ちしていました、プリンス・デマンド。…えーと、そのお方はどなたでございましょうか?」
「プリンセス・セレニティだ。乗ろう」
「う、うん…」
デマンドとうさぎ、運転手は車に乗ってシートベルトを締めた。
「出してくれ」
「はい」