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宮野志保≠シェリー
官能リレー小説 - 二次創作

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宮野志保≠シェリー 11

ふと気が付くと、足音が遠ざかる音がした。同時に幾つもの気配が消え、部屋には彼だけが残った。
私は意外な思いで顔を上げる。彼は先ほどよりも随分殺気を緩め、壁を背に煙草を蒸していた。
私を一度も見る事をせず、彼は呟くように問い掛けて来た。
「……どういうつもりだ、シェリー」
私は答えなかった。
彼がしゃがみ込んで私の目前に移動する。
目線を合わせない私の顎を掴んで、強引に自身へ向けさせた。
「裏切るなと言った筈だ」
私は恐怖を押し殺して、不適に微笑して見せた。最も、上手く笑んでいる自信はなかったが。
私の表情に彼が顔を顰るが私は構わず口を開いた。
「……どういうつもりも何も、先に裏切ったのは組織じゃなかったかしら」
私の言葉に顔を顰ていた彼の表情が見る見る代わって行く。既に見慣れた人を見下しきっているような冷笑だ。
彼は煙草を壁で揉み消すと鼻で軽く笑う。
「裏切りとは、随分と的外れな解釈だな」
「……確かに裏切られたと言うのは正確じゃないでしょうね。たかが一人の科学者が反逆を起こした所で何かが変わる訳でもない。そうなったらルールを破った罰、或いは口封じの為に元から消すつもりだったんでしょう」
私の言葉に、彼の冷笑が段々薄らいで行くのに気が付いた。
私がその事に驚き無意識に目を見開くと、彼は私の様子から自分の状態を察したのかすぐに冷笑を作り直した。
普段の彼からは、全く想像できない姿である。
「……お前は、自分の価値を分かっていないようだな」
「……私の価値ですって?」
彼の言葉を私は理解できずに問い返したが、彼から返事が来る事はなかった。
気付けば彼は二本目の煙草に火を付けている。
私は諦めたように視線を逸らすと俯いた。
「……シェリー」
不意に彼に名前を呼ばれる。
その声に穏やかな優しさが含まれているように感じたが、私は決して顔を上げず沈黙を守り続けた。
彼の掌が私の頬を包み込んだ時、私は漸く顔を上げた。
部屋が薄暗い上に彼の長い前髪と黒い帽子が邪魔して、彼の顔色をはっきりと伺う事ができない。
私が暫し見つめていると彼は急に立ち上がった。その顔に嘲笑が浮かび上がっている。
「……1時間だけ、時間をやる。自分のこれからをどうするのか、しっかり考えるんだな」
彼は明かりの差し込むドアの向こうへ消えて行った。
一人取り残された私は、そのやけに黒いドアを見つめた。
鍵が掛けられる音が聞こえる。
防音が調えられた部屋特有の耳鳴りのような静寂が私の精神を徐々に蝕んで行くのが分かった。
辺りを見渡すと部屋の端に小さな扉があるのに気付く。そこが外に繋がっているかも知れない。
私は最後の抵抗のつもりで白衣のポケットからAPTXIN4869のカプセルを取り出すと口に含む。
発表はしていないが以前、最後の実験の段階中に一匹のマウスが幼児化したケースがあった。
死ぬ確率は圧倒的に高いが上手くいけば私は幼児化した身体で脱出できる可能性があったし仮に死亡したとしてもそれで構わなかった。

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