姉貴 2
「あのさ、姉貴…辞書貸してくんない?」
朱音のその言葉に、蒼音のブラシを動かす手がピタリと止まる。
「……あら?…朱音に先週、買っておきなさいと言ったと思うけど…」
氷のような姉の言葉が容赦無く刺さる。
あちゃーと思ったがもう遅い。
いいつけを守らなかった時の姉の怖さは身をもって知っている。
「ほらっ、オレッ…帰り遅くてっ!……本屋閉まっててさぁ…」
「言い訳はいらない!」
焦って弁解する朱音だが、姉の一言で黙らされる。
クルリと振り向き立ち上がる蒼音…一年生にして空手部エースの座を射止めつつある朱音が、万年帰宅部で『体型維持が必要になるまで運動しない』と豪語する蒼音に圧倒されジリジリと後退する。
その上、上背の高い朱音が蒼音に下から『見下げ』られ…かなり萎縮してる。
「オシオキね…」
ポツリと言った姉の言葉に、朱音は更に焦るしかなかった。
「姉貴っ……お仕置き…?」 いつもの蒼音なら、小言で済んでいたが、お仕置きなんて言葉を聞いた朱音はただうろたえるしかなかった。
「オシオキとして…明後日は朝から買い物に付き合って貰うからね」
裸のまま手を腰に当てて言い放つ蒼音…誇らしげに揺れる見事な乳を、朱音は溜息交りに見詰める。
明後日の休み、練習もなくノンビリできると思っていたのに…しかも蒼音の買い物は異常に長く、これは朱音にとっては拷問級のオシオキだった。
「心配しなくても、朱音の服とか下着も見て上げるから…」
それが一番のオシオキなんだよ…と、朱音は口の中だけでコッソリとボヤく。
「何か言った?」と、蒼音の地獄耳は聞き逃さなかった。「い、いや!なんでもないです!」慌てて誤魔化す朱音。そそくさと姉の部屋を後にし、朱音は眠りについた。
朝、蒼音に起こされ用意をし、二人とも家をでた。