Girls,be ambitious. 8
「ずっと願っていた。
物心ついた子供の頃から。
容姿や頭脳・・・オプションなんか取り払って『素の俺』を見てくれる人が欲しいって。
周りが誉めてくれたんだ。
綺麗なカッコイイ顔だね。
頭良いね。
足速いね。
自慢の息子だ。
俺は嬉しくって、もっと期待に応えなきゃって頑張った。
次第にみんなの中で『理想の俺』が作られていって、俺がそれに反した事をすると、凄く怒る。驚くようになった。
そんな子じゃないでしょって、理想の枠に当てはめようとしてきた。
もうその頃には、それは俺じゃないって、言えなくなっていた。
どうすれば良いのか分からなくなってた。
そんな時、お前に出会ったんだよ。
俺の小さな救世主。
例え夢の中だけであっても、凄く救われた。
大袈裟じゃなくね。
『でもさ、そんなん全部ひっくるめてお前はお前、銀慈だろ。』
この一言にどれだけ救われたか。
『俺はさ〜どんなに頑張ってもお前みたいにカッコ良くなれないし、頭も良くなんないぜ。
これって才能ってやつだろ?
すげぇじゃん!?
まぁ、逃げ足の早さだけは負ける気がしないけどな!』
そう言って笑ったお前を見てほっとした。
今まで頑張ってきたことは無駄じゃなかったし、お前は無条件に『俺』の存在を肯定してくれたんだ。
初めて人前で泣いたよ。」
話し終えて、一つ深く溜息を吐く青海川。
そんなヤツを俺はボーっと見つめていた。
まるで他人事のようだ。
まるで夢物語のようだ。
なんて事を考えながら・・・
そう、
今、ここにいる俺にとっては他人事、夢物語だ。
まったく身に覚えなんてありはしない。
まるで実感が湧かない。
ふと、視線を感じて顔を上げると、青海川の視線とぶつかった。
何か期待しているような、視線。
その思いに応えられるはずもなく俺は視線を避けるように反らし、気がついたら廊下に走り出ていた。