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誘拐
官能リレー小説 - 時代物

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誘拐 1

獣の奇声が、小雪の舞う路地に響き渡った。
「人さらいがきたぁー」
春は名のみの雪の昼下がり、漁師町を震撼させる悲鳴があがった。
「助けてくれぇ」
悲鳴に混じって、野太い男の声がする。
「大変だよ、山太。人さらいだってさ」
小春丸は、山太の手を引いて走りだした。
小春丸にとって、山太は兄弟みたいなものだ。山太は後ろを走りながら、「小春丸ぅ」と情けない声をあげた。
まだ状況を読みこめていない山太を引っ張って、小春丸は必死で走った。
しかし…。不意に山太の手が離れた。
「山太?」
振り返ると、山太の体が何かに包まれてふわりと宙に浮く。山太が小春丸に向かって必死に手をのばしている。
「小春丸!助けて!」
叫び声を上げる山太の体が巨大な網に包まれて、空高く引き上げられていく。
小春丸は、呆然と空を見上げた。
「山太!」
小春丸も天に向かって叫んだが、山太の声はすぐに遠ざかり、消えた。
小春丸は、混乱した。何がなんだか分からないまま、辺りを見回した。
「小春丸。おまえもこっちへこい」
野太い声で呼ばれ、小春丸はそちらの方を見た。
そこにいたのは、漁師の文彦だった。文彦は手招きしながら、人気のない路地へと入っていった。小春丸は混乱したまま後を追った。きっと、何か事情を知っているに違いない。
「文彦さん、あの網みたいな物は何?何が起こったの?」
小春丸は息も絶え絶えに訊ねた。
それを聞き、文彦が足を止める。
「小春丸。山太をさらったやつは人さらいなんかじゃないよ」
「え?」
「よく考えてみるんだ。空から網が降りてきて人を捕まえるなんて人間に
できる芸当じゃないよ。きっと、天狗の仕業だ」
小春丸は混乱した。
「山太はどこへいったの?」
「分からない。捕まったらどうなるか分かったもんじゃない」
文彦は真っ青な顔で言った。
小春丸は、再び空を見上げた。雲の切れ間に山太をさらった網が見える気がしたが、何も見ることは出来なかった。
もしかしたら、今ごろ食べられているかもしれない。そう思うと胸が痛むが、何が起こっているのかよく分からないため、助けに行くこともできない。
小春丸は、ただ空に向かって祈るしかなかった。
それから数日、小春丸は文彦の家で過ごすことになった。
その間も、山太のことは心配でならなかったが、どうすることもできなかった。
日増しに不安と心配で胸が張り裂けそうになっていった。
そんな小春丸をかわいそうに思ったのか、文彦は優しく接してくれた。
そんな時、文彦の元を一人の男が訪れた。
その男は、山太を連れ去った天狗の仲間の者だと言った。そして、小春丸に天狗の元へ来るようにと言った。
わざわざ天狗の方から接触してきただけでなく、小春丸に誘いをかけてきた事に二人は驚きを隠せない。

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