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明治一代助平男
官能リレー小説 - 時代物

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明治一代助平男 2

この男の名は宮小路 精麿(みやのこうじ やすまろ)。名前と口調から想像出来ると思うが公家さんである。精麿はこの帝都の社交界で知り合った“悪友”だ。俺とは武家と公家という間柄だが、西欧式の爵位制度(公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵)に当てはめるとちょうど家格が同じになり、また同年代でもあり、さらに“同じ目的”を持つ同志という事もあって公武の壁を乗り越えて意気投合した。
その“目的”とは…
「お…おい種成よ、あそこに居るのは扶桑屋の一番人気芸者、お藤ちゃんではおじゃらぬか?」
「おぉ…違いない。いや、しかし結構デカい乳してるじゃねえか…ありゃ西洋婦人にも負けないな」
「ひっひっひ…西洋の婦人服は身体の線がはっきり判って淫らでおじゃるなぁ」
俺達の視線の先に居るのは色とりどりの華やかなドレスで着飾った女達…彼女らは人数合わせ要員の芸者さんである。
我が国のご婦人方はお琴にお茶にお華の作法は完璧に身に付けていても、西洋紳士のお相手を満足にこなせるほど社交界のマナーに精通している者はまず居ない。そもそも西欧文化に通じている人間の数が“社交界”という物を構成出来るほど居ないのだ。残念ながら…。
そこで我が明治新政府が打開策として投入したのが芸妓だった。
彼女達に西洋社交界のマナーを仕込み、ドレスを着せ、急拵(きゅうごしら)えの“社交界”をでっち上げてしまったのだ。
そんな彼女達が俺達の狙いである。
もちろん芸妓なので“お持ち帰り”は厳禁なのだが、あわよくば夜会の途中でさり気な〜く中庭などに連れ出して茂みの影でイッパツ…というのが俺や精麿の常套手段だった。
芸妓達の方も(平素であれば金も取らずに男に身体を許すなど有り得ない事なのだが)普段の窮屈な生活から解放されるこの時だけはハメを外して話に乗ってくれる場合が多い。
そしてお互い『いけない事をしている』という背徳感から盛り上がり、けっこう本気の激しい交合(まぐわ)いになる。
これがまたタマらないのだ。
さてお目当ての芸妓をどうやって連れ出したものか。
俺と精麿が知恵を絞ってあの手この手を考えていると。
ふいに背後からトン、と軽い衝撃を覚えた。
実際はもっと強い衝撃だったのかもしれないが、腐っても武家の出である俺の体勢を崩すには至らない。
いったい何だと振り返ってみれば。

「も、申し訳ございません!大丈夫でございますか!?」

と女中が1人、血相を変えて謝っていた。
その手には空になったグラスや皿を乗せた盆を持っている。
どうやらあまりの忙しさに、うっかり客である俺にぶつかってしまったようだ。
まぁ別に痛くもかゆくもないし、服も汚れなかったからいいのだが・・・。
俺は目の前で必死に謝る女中の服を注視していた。
彼女が来ているのは着物でも割烹着でもない、変わった洋服。
黒いワンピースに白いひらひら(フリル)のついたエプロン。
そして頭の上にはこれまた白いひらひらのついた変なかぶり物(カチューシャ)をしている。
確かこれはメイド服・・・とかいう代物だったか。
外国の女中の着る仕事着と、本か何かで見聞きした記憶がある。
しかし大事なのはそこではない。肝心、要なのは目の前の女が実にそそる格好をしているということだ。
着物では本来あまり見せない手足をこれでもかと男(つまり俺)に見せつけ、挑発している(ように見える)。
―――いい。
もちろんきちんとした教育を受けた芸妓には及ばないだろうが、このメイドとかいうもの、とにかく俺の心を刺激してくる。
ひらひらのついた服のせいでわかりづらいが、胸のほうもいいものを持っているようだ。
しょせんは女中だし、連れ出すのは簡単だろう―――。
瞬時にそこまで計算を終えた俺は、さっそく目の前のメイドをいただくことにした。
幸い、彼女を連れ出す理由もある。まるで彼女が俺に食われるために用意されていたのではないかと錯覚するほどだ。
俺は謝罪するメイドに難癖をつけ、うまくパーティ会場から彼女を連れ出した。
高嶺の花である芸妓より、女中なんかに手を出す俺に、精麿は理解できないとばかりに肩をすくめていた。
よけいなお世話だ。ほっとけっての!


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