ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 489
「はい…大変ですけど、匠さんと、皆さんのため、頑張ります」
香澄は微笑んで言った。
こんなに健気で、純粋な子と一緒に、子供も授かることができた。
僕は幸せ者なんだ。それを続けられるよう頑張らないといけない。
「お腹の赤ちゃんの性別、わかりませんかね?」
杏さんは僕ら2人に尋ねる。
「はい…本当はもうとっくに分かっているんですけど、聞いて無いんですぅ」
「あらそうなの?」
杏はゆっくりとカーブを切り、青山家の敷地内へと入っていく。
「産まれてからの楽しみにしようって、お袋たちに言われて…」
「そうね…それも楽しみが増えていいかもしれないはね…」
「本当は始めから分かった方が、何かと準備が出来ていいんですけど、僕が産まれる時もそうだったらしくて…」
「へぇ、昔ながらで温かみのあるご家庭ですねぇ」
「ええ、まあ」
杏さんは目を細める。
正面入り口の前で車が止まる。
メイド服を着たよく知った顔が2人、前に現れる。
萌ちゃんとソフィアちゃんだ。
「ようこそいらっしゃいました、お嬢様、匠さん」
「お嬢様、身体に負担ないようゆっくりとお願いしますね」
「ありがとうソフィアちゃん。でも病人じゃないんだから気を使わないでぇ大丈夫ですよぉ」
「まあ!お嬢様ったら、すっかり大人になられて…」
確かに、家に来てから香澄は逞しくなったかもしれないな…
「やだぁ、ソフィアちゃんも萌ちゃんも泣かないでぇよぉ〜!私は昔っから大人だってぇ〜」
大人って…君はまだ18歳だし、昔はもっと…
…桜ちゃんや杏さん、それに和彦さんから聞いた香澄の昔話。
それこそ、香澄は『女王様』気質だったらしく、気に食わないことがあると執事やメイドや料理人、誰彼構わず文句を言いまくり、当り散らすというとんでもない、手のつけられない性格だったそうだ。
それゆえ、和彦さんは香澄を学校に通わせるのを諦め、選りすぐりのプロフェッショナルを集め家庭教師として招いたのだという…