ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 473
「ごめんなさい…こんな場で私情を挟むような真似をして…」
「いや、構わないですよ…つらい思いをさせてしまったのなら」
「いえ、柏原さんは悪くないですから」
三枝さんは僕から離れ、服を着るよう促した。
その後は真面目な商談が進み、三枝さんからは前向きなお話をもらうことができた。
それにしても僕にそっくりな男って誰なんだ?…
契約はさておき、僕はそっちの方が気になってしまう…
ロビーに出ると、エントランスからやって来た女性に三枝さんは深々と頭を垂れ、吊られて僕もお辞儀をした…
「誰です?…あの女性…」
「あ、ごめんなさい…うちの社長…鈴田美恵子よ…」
「えっ?社長?」
見た目かなり若そうだった。ゆかりさんや夏子さんくらいだろうか。
「はい、先代から引き継がれまして。何しろ鈴田家はあの人お一人しかいませんので…」
一人娘なんですね…気苦労が多そうな感じがするな。
それでもやり手な感じは見て取れたけれども。
「社長さんは、ご結婚とかはされているんです?」
あまり聞くようなことではなさそうだが、気になった。
「いえ、仕事一筋でいらっしゃったようです…」
「それでは、後を継ぐ人もいないんですね…」
「いえ実は…私が付き合っていた男の人っていうのは、社長のご親戚…子供の時に養子縁組して、鈴田家に入った人だったんです…」
「その人が次期社長に?…えっと、それってさっき言ってた…僕とそっくりな元カレさんのことですよね?…」
「え、ええ…」
「ごめん、聞くべきじゃなかったかな」
「いえ、その、私が、お付き合いしていた彼が、その養子にして次期社長だと言われています…あくまで現時点での話ですが」
「そんなに似てるの?」
「ええ…他人とは思えないです…」