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素直になれなくて
官能リレー小説 - 純愛

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素直になれなくて 4

午後の業務内容レクチャーの時間も済み、スケジュールを確認した和樹は、新入社員の男子と一緒に居室へ戻った。

一時期に比べたらメンバーは減ったものの、喫煙率の高い情報システム部に於いて、珍しい嫌煙家の和樹は、甘い香りが特徴的なベトナムコーヒーの袋とマグカップを手に、給湯室横のパントリースペースへと向かった。

「この時期の業務レクチャー、リーダーくらいの役職の人間でもいい気がするな……」
ボソッと呟きながら甘い香り漂うベトナムコーヒーを注ぐと、コーヒー殻を専用のゴミ箱に捨て、部屋へと戻った。
席に戻ると、和樹は業務用のノートPCを開き、離席中に届いたメールのチェックをしていた。
殆ど、社外から来るセミナーやらセキュリティソフトの売り込みやらの不要不急のメールであったが、そのなかに、「辰巳裕司」の名前が書かれたメールが届いたのを確認すると、和樹は開封した。

「あいつ、本社に居る同期全員に送ったのか……」
送られてきたメールの掲題が「同期会のお知らせ:五十嵐様、山城様、上條様、小早川様」であること、内容が日比谷に最近移転したロシア料理店の“ザーパト”で皆で集まって話しませんか?と言う内容なので、業務の合間に“YES”と返信をした。
“業務中なのに、こんなメールに返信しているのがバレたら、不味いよなあ……”

和樹は甘い香りを漂わせ、程良い加減に冷めたベトナムコーヒーを啜りながら、他のメールに目を通しつつ、仕事の続きをしていた。

「さてと、仕上げるか……」
和樹は研修のレポートやOJTのスケジュール表、と言った新入社員研修資料を部内共有サーバーに保存すると、腕時計を見やった。
「定時、か……。ノー残業dayだし、そろそろ帰るかな……」
就職祝にと亡き祖父から贈られた、スイスの老舗時計メーカー製の腕時計を見ながら、和樹はひとつ溜め息をついた。嘗てこの腕時計を見て、時計の趣味の良さに反して、腕の長さに合わない、ファストファッションの店で扱われている寸足らずのワイシャツを着ていることに気付いたある女性から「折角の時計が台無し」と指摘され、自分の身体に見合った身仕度を整えるようになったことを思い出していたのだ。

「さて、帰るか…」
その女性…。彼女は、和樹の人生の中で、就職するまで出逢うことのないタイプの女性だった。
名家に生まれ育った、容姿と知性に恵まれた「深層のご令嬢」だが、それをひけらかすこともなく、かと言ってガサツであるとか、豪快であるとかではなく、立ち居振る舞いに気品がある知的な女性で、「近寄りがたい高嶺の花」と思っていたタイプながらも、何故か手放したくない。和樹は五十嵐涼子と言う女性を意識せずにはいられなかった。


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