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素直になれなくて
官能リレー小説 - 純愛

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素直になれなくて 3

ーーーーその時、和樹が新入社員の教育をしている横で、篤志のグループの中堅層がパーテーションで区切った二つ隣のミーティングスペースで軽い打ち合わせをしていた。

「今回は、より多くの社内の各部署の協力が必要です。手始めに、情シスの内部統制と統括の人事教育に協力をお願いしようかと思います」
「上條さん、そう言うけど内部統制や人事教育って手強いですよ。私たちでは相手にしてもらえないです」
「でもお、上條さんは内部統制の山城係長や人事教育の五十嵐課長と同期でしたよねぇ?」 
一座で最も若い女子が、舌足らずな口調で言う。女子社員のコミュニケーション手段に、同期生のコネを使う者が多いのは篤志とて認識しているが、和樹や涼子のような役職者、しかも涼子に至ってはこの会社のオーナーでもある世界屈指の財閥グループの会長の一人娘であり、将来は女性初の巨大財閥を率いる立場である、とどこか引け目を感じてしまうところがあった。

「そうだよ」
「ならぁ、上條さんがお声をかければ協力して貰えるかもしれませんねぇ」
「そうだな。二人に頼んでみるよ」

一座の年長者であり、社歴も長く経験豊富な篤志が席を立つと、それに続いて後輩に当たる打ち合わせ参加メンバーが席を立った。ーーーー打ち合わせも終わり、下のフロアにある自分達の部署に戻ろうとしながら歩いていると、篤志は若い覇気のない新入社員に業務レクチャーする和樹を見やった。ーーーー自分等もあのように、研修が終わるとすぐに役職者と先輩社員からから業務レクチャーを受けることがあった、と。和樹がSMSで愚痴を溢していた“草食系のおゆとり様”とは、あのヒヨコのような彼のことかと思った。
一方、覇気のない新入社員を相手に軽い疲労感を覚えている和樹は、「これも給料のうちだ」と割りきりつつも、指導員としての任務をこなしている、という体である。

和樹が一流大学を優秀な成績で卒業後、トップクラスの成績で入社したとは言え、旧帝大をトップクラスの成績で卒業し、海外の大学院で帝王学を学び、次期会長の座が約束されている財閥グループの会長の令嬢である涼子を除き、他の社員より早く役職者になったのは、努力と言うより運の部分も多いと思っている。
早くに父親を亡くした母子家庭育ちの自分が、涼子と釣り合うとは思えない、と自分の恋心に気づきながらも蓋をしているのである。
和樹が入社後、同期生の中で一緒に居て一番寛げると言うか心穏やかでいられるのが涼子であり、それと同時に博識だがそれをひけらかさないものの、知的好奇心をも刺激する時間が、和樹には貴重に思えてもいた。

いま和樹の目の前に座るおとなしい新入社員は、小柄で細身な体型と、童顔で学生に見紛うような容姿には似合わないスーツを着ている。まるで、七五三の衣装を着ている子供みたいだな、と思いつつ個別研修を進めていた。
そんなことを一瞬思いながら、和樹は午前中にレクチャーした内容を繰り返すように、新入社員の男子に説明をした。
「スマホを貸し出す際に同意書を取る意味、だよね?」
「手続き一個一個、規定を細かくしている理由って、そういうことなんですね」
和樹の話をメモしながら、渡された規定集に付箋を貼り、イントラのどこに掲載されているかなど、細かい情報を書き込んでいく新人男子を”真面目な子だな”と観察する。

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