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素直になれなくて
官能リレー小説 - 純愛

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素直になれなくて 2

一方、同期生に噂されているとも知らずエレベーターに乗り込んだ涼子と和樹は、二人きりの空間でお互いを観察していた。

フランス人形を思わせる容姿の涼子は、化学メーカーのみならず世界的に幅広く事業を展開する巨大な財閥グループの会長の一人娘であり、次期後継者と目されている。
和樹の眼にフランス人形、と見えたのも道理で実際に涼子はフランスの貴族の流れを組む家系に生まれた母親を持つハーフである 。

無論、容姿の美しさや醸し出す上品な雰囲気や洗練された物腰、そして知的で語学堪能だがそれをひけらかさず、程よい刺激を受けるのが和樹には心地よかった。

“男は精悍で、女は気品があるのがいい”――――和樹と涼子は、この点で好みが一致していた。そもそも、入社式ののちの研修中の休み時間、自販機で購入した飲み物が偶然同じであったことで話し出し、偶然好きなアーティストの話をしたことで仲が良くなったのだが、その後転勤や海外留学などで離れる期間があったのもあり、“友人以上恋人未満”のような状態だった。
暫くして、二人を乗せたエレベーターはビルのオフィスエリア最上階である20Fへと着いた。

「着いたな。またあとで…」
「そうね。午後も頑張らないとね」

軽く手を振りながら、エレベーターホールを隔てて反対側にあるトイレに向かう和樹と涼子。接客を主とする部署ではないにせよ、情報システム部と統括管理部は社内の各部署にある種の「睨み」をきかせる要素があるため、身嗜みを整えるのも業務のうち、と捉えている。

涼子は個室で用を済ますと、歯磨きをしながらもブラウスの襟や前立てに皺が寄っていないか、化粧は清潔感があるか点検をする。

一般的な量販店で売られているスーツとは違い、涼子の手足が長く、長身で細身な体型や、西洋の白人と見紛う肌に合わせ、フランスから生地を取り寄せた仕立てのいいビジネススーツは隅々まで手入れが行き届いており、染みや皺が寄らないよう、細心の注意を払っていた。

「よし、午後も頑張らないと…」

涼子は自分自身に発破をかけるように、昼食で注入したエネルギーを身体中に廻すがごとく軽く腕のストレッチをすると、トイレから出て統括管理部 人事教育グループの管理職席に戻る。
「五十嵐課長、お戻りですか?」
「お疲れ様。頼んでおいた資料、出来ているかしら?」
「はい、これで大丈夫でしょうか?」

ピンクのクリアファイルに入った、ゼムクリップ留めされた資料を受けとる涼子。

「ありがとう。内容を拝見するわ…」
涼子は資料を読み始め、午後の仕事に取り掛かり始めた。

――――同じ頃、和樹は新入社員をミーティングスペースに呼び、業務のレクチャーを始めていた。

「午前中までにやった内容、理解出来ましたか?」
「……すみません、山城係長。ここ、もう一度教えていただけますか?」

如何にも覇気のない若い男子、と言った風情の新入社員は、困ったような表情で質問する。真面目らしいが、おとなしく、反応の薄い彼を任された際、どうなるのかと不安が脳裏によぎった和樹だが、苛ついたりせず、どうにか教育出来ている様子である。

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