堕天使の成長 2
「クロエ…」
莉音には、クロエがこのまま暗闇に飲み込まれてしまうのではないか、どこか遠くに行ってしまうのではないか、という恐怖と焦りが沸き起こった。
そう思った次の瞬間。
まるで台風の中心付近にいるかのような突風が吹き付ける。
道端の落ち葉やタバコの吸い殻、空き缶が風に巻き上げられる。
そして、クロエが胸を押さえてうずくまる。
莉音はいてもたってもいられなくなり何とかして近づこうとする。
「クロエっ!!」
「ダメ!来ちゃダメ!!私は、私は大丈夫、だから…」
こんな時に身体が疼いてきた。なんで疼くのかクロエにもわからなかった。
そしてフラッシュバックされるあの出来事。もしくは夢の中のこと。
「!!!!!」
クロエの脳内を駆け巡る光景、衝撃的なモノが写り込んできた。
自分を犯しているのがどう見ても莉音にしか見えないのだ。
そんなはずは無い、そんなはずは無い…
あの時の強姦魔は筋肉と脂肪の両方が乗った大柄な大人だった。老人ではなかったが、莉音にしては体格が大きすぎる。
どうしてなの?
私は…莉音にこうされたいの?
動揺していたクロエが気がついた時、既に彼女は莉音によって公園の外に引き出されていた。
「本当に大丈夫…?
このあたりでは4年ほど前から数ヶ月に一回女の子がレイプされてて…まだ犯人捕まって無いらしいんだ…」
「えっ…」
莉音に言われた言葉に、驚き、そして怒りが湧いてきた。
私だけじゃ無いの…見境なしに手を出してるの?酷い…酷すぎる。
「クロエ?
……まさか、トラウマの原因って…」
「ううん、大丈夫。後の方…なんて言ったの?」
自分の推定に恐怖を覚え、莉音の声も小さくなり、後半はクロエには聞き取れなかった。
いや・・・
後半の声が聞こえなかったのは、クロエの頭に声のようなものが響いたからだった。
オ・・・エハ・・モ・・・カ・・・
不明瞭な声で聞き取りにくかったが、目の前の公園が禍々しい雰囲気に包まれていくごとに、声は明瞭になっていった。
オ前ハ・・・エ・・・ノ・・・
そして禍々しい空気が破裂し、クロエと莉音は公園に転がりながら吸い込まれた。
ふぎゅうと可愛らしい声で転がった自分より小柄な莉音を咄嗟に抱き締めるクロエ。
そのクロエの見つめる先には大男が立っていた。
顔は白いマスクに覆われたその男・・・
クロエは感覚的に、これが自分を犯した男だと気付いてしまった。
その男が言葉を発した。
オ前ハ獲物カ・・・
オ前ハ獲物カ・・・
そして禍々しくおぞましい笑いを響かせこう言った。
オ前は獲物ダ!!
その声にクロエの身はすくむが、同時に凄まじい疼きを感じた。
恐怖と欲情を同時に感じて、クロエは莉音を抱き締めて耐えた。
いや、正確に言うと莉音にすがりついたのであって、莉音にすがりつかなければ意識すら飛んでしまいそうだったのだ。
「行って……あっち行ってよ…なんなのよ、もう…」
激しい発作のような疼きに、クロエはもう正常な感覚すら失いそうだった。
巻き込まれた莉音はもっと大変…に見えたが。
「クロエ…!!」
クロエの綺麗な髪が、服が汗びっしょり、荒々しく肩で息する彼女の尋常ならぬ姿に動揺しつつも、その身体を抱きしめ返す。
クロエの豊満過ぎる身体が肌に直に感じられ、莉音の男としての本能が疼きだす。
「莉音っ……」
クロエが力なく彼の名前を呼ぶ。
次の瞬間、彼の背後に立っていた大柄な男のシルエットが消え、激しく吹き付けていた風がパタリと止んだ。
さっきまでのざわめきが嘘のようで、辺りはシーンと静かになった。
真上の空には綺麗な月が見えた。雲もすっかりなくなった。
「大丈夫?クロエ…」
「はあ、はぁ、莉音…怖かった…」
涙に濡れた瞳で莉音を見上げるクロエ。
恐怖の存在は消え去った。アレが何だったのかはよくわからない。それでもまだいい。
それよりも…だ。
クロエの身体の疼きは収まらなかった。
「クロエ?どうしたの?まだ息荒いよ?」
「莉音…お願い、莉音が欲しいの…」