幻影 37
「でも…」
優佳里はまだ何か言いたそうだったが、僕の表情を伺って言葉を止めた。
これは瑞希だって一緒だ。
僕を慰めようと迫ってきたあの日と一緒。
「豊くん、この後暇、だよね」
「ああ、それがどうした…」
「2人きりで話したいな、ここじゃ周りが…」
ちょっと焦りながらも、何かを少し期待してしまう…
優佳里が不甲斐ない僕を知っているなら、男としては名誉挽回といきたいところだ…
「それじゃあ優佳里の家に行ってもいいかな?…飼い猫にも久しぶりに会いたいし…」
一人暮らしの優佳里の家へは、瑞希や満と何度か行ったことがある…
遠い実家からこちらにやってきて、一人の寂しさを紛らわせる為に飼い始めた猫だそうだ。優佳里の実家にも何匹かいるらしい。
「目的は、それだけじゃないよ?」
「ああ…」
「むしろ私がしてもらいたいかも」
こんなに美人で優しくて料理も上手なのに、優佳里に男の影が全くないのが不思議だ。
「おいおい;…からかうのは止めてくれよ…」
瑞希と優佳里は時々こんな風なことを言って、僕をドキッとさせる…
「ふふ、顔赤く染めて何考えてる訳…?」
「な、何言ってんだよ;…優佳里が変なこと言い出すからだろ;…」
大学の最寄り駅から数駅、優佳里が一人暮らしするマンションに着いた。
彼女は結構お嬢様っぽいところもあるのか、なかなかオシャレな住まいなのだ。
「ゆっくりしてて。お茶入れるから」
「ありがとう」
ソファーに座る。
僕の姿に気づいて黒猫が接近してきた。