幻影 28
「ああ初めは僕も驚いたよ…幻影でも見ているじゃないかと我目を疑ったさ…」
「ここまで似てるとそうよね…それでこの子は、亡くなった結衣さんのことは…?」
「ああ、それなりには話したよ…」
「それじゃああの事も?…」
思い出したのだろう…彩月は悲し気に目を潤ませる…
「そこまで詳しくは話してないさ…」
さすがに思い出すのも今でも嫌になる出来事を、今の結衣にも話すのはできなかった。
できればこのままでいたいと思うくらいだ。
「話さなきゃ、ダメかな?」
「それは…お兄ちゃん次第だけど…」
「あのことでは家族にも散々迷惑掛けたからな…僕は出来ることなら、一日でも早く忘れたいんだ…」
「それならそれでいいんじゃない?…いくら恋人だからって、自分の全てを知らせる必用も無いと思うは…」
「でもよ、こんなに似ているじゃ、この先…あの事を知らせる心無い奴も出てこないとは限らないよな…」
「お兄ちゃんは優しいから、そうだとしても絶対、この結衣さんを守っていけると思う。だから、頑張ってね」
「ああ…」
彩月はニコッと笑った。
生意気な時期もあったけど、ずいぶん可愛くなったし心遣いもできるようになったじゃないか、こいつ…
「でも、ちょーっと声は激しすぎるかなー」
「お、お前…」
「ふふ、早くパンツぐらい掃いてよ、ソコから風邪引くはよ…」
「あっ;…スマン;」
話しに夢中になって隠すのすら忘れてたぜ;…
「だけど大人になったお兄ちゃんの初めて見たけど、随分立派になったのねぇ」
「あっ…まあな;…」
確かに彩月とは、子供の頃は一緒に風呂にも入っていたもんな…