違和感がある日 1
市木田礼輔はいつも通りの時間に目覚めた。
だが、礼輔は得たいの知れない奇妙な感覚に襲われた。
もう大学どころではない。礼輔は部屋を調べる。
昨日机の上に置いた筈のテレビのリモコンは枕元にあるし、スリッパの色が紺色からライトグリーンに変わっている。
トイレの電球の色も違った、電球色から昼白色になっていた。
まるで悪趣味な間違い探しのような微妙な差異に、礼輔は気持ち悪くなってきた。
誰かが部屋に侵入したのだとしたらあまりにも不気味すぎる。礼輔は大学を休むことにした。
眠っている間になにか異常事態があったのは間違いがなかった。
昨日帰宅した時は確かに普段通りだったからだ。
しかし寝ている間に誰かが来たと仮定しても、スリッパや電球だけをすり替えていくなんてあまりにもおかしすぎる。
礼輔はテレビをつけた。いつものようにニュース。その合間に、都心のある駅前の風景が映るのだが、それを見て彼は目を疑った。
映っている女性の、半分くらいが、上半身に何も着ていないように見えるのだ。
もっとよく見ようと、彼はテレビ画面に近づいたが、場面は切り替わった。
次にでてきた女性アナウンサーは、上半身に何も着ていないわけではなかったが、彼の感覚から考えると、ちょっと薄着に見えた。
礼輔は、一階に降りた。
階段は特に変わったところは無かった。
そして、彼はリビングに近づいた。
普段なら、ここに母親がいるはず。
しかし、くもりガラスの向こうは薄暗く、そんな気配はなかった。
「おはよう、母さん」
返事は無い。
リビングも、キッチンも、雑然としている。
これは間違い探しのレベルではない。
寝息のような音が聞こえる。礼輔は、テーブルの影の、その音の方へと歩んでいった。
まず、女ものの衣服が散乱しているのが見えた。ブラジャーも、パンティーも。
「あ、ああ!」
そのあと、彼の目に、タオルケットをほぼ上半身にだけ掛けて、下半身は、何もつけずに、股を大きく開いた女性が、目に入った。
その足の付け根の茂みは、何か糊が固まったような光り方をしていた。
「米田川 由美!」
その女性は、ゆっくり、体を起こした。タオルケットがはだけて胸が露わになるのも構わず。
「れい君、おあよー…」
その女性は、目をこすりながら、言った。
「ゆ…由美;、何でお前ここにいんだよ?…」
礼輔はドギマギしながらも冷静を保ったように返した。
「うぅ〜ん…何でって…何がぁ〜」
その女性は、礼輔の目の前で大きく伸びをする。
「ぅうぉおい!服ぐらい着ろよぉ!」
礼輔は堪らず声を荒げてしまう。
「へぇ?…れい君…どうしちゃったのぉ?…」