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バトル・ザ・ヴァンパイア
官能リレー小説 - その他

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バトル・ザ・ヴァンパイア 9

「はぁ、はぁ、うあぁッ!?」
恐怖の余り周りに気を配れなかったのか、彼は何も無い所で派手に転倒してしまった。
「はぁ、はぁ「おやぁ? 何をそんなに慌ててるんだい?」 ッ?!!」
急いで立ち上がろうとするも力が入らず、さながら生まれたての子ヤギの様に地面を這いつくばる。
そんな彼の頭上から若い男性の声が降りかかった。
「はぁ、はぁ・・・あ、あんたは・・・?」
「あ〜らら。 最近の若い子は大人に敬語も使わないのかい? お兄さん悲しいなぁ」
四つんばいの状態で顔だけ上に向ける智。疲労の所為か、言葉は途切れ途切れで荒い。
一方、声を掛けた男性。全身を白いスーツに身を包み、頭には白い帽子。
パッと見、そこらのクラブに居そうなホスト風に見える優男。帽子から出ている紅蓮を思わす真っ赤な髪がイヤに印象的だ。
そんなホスト風の優男は、大げさな身振りで嘆きを表現している。

「な、何だよ・・・あんた・・・ッ」
目前の男性に智は睨みつけながら苛立ちげに聞く。聞かれた男性は両肩をすくませ怖がる振りをするが、それはかえって彼の苛立ちを増す起爆剤でしかない。
「お〜怖。 何をそんなに苛立っているかは知らないけど・・・落ち着いたら?」
「ッ!!」
彼の頭の中で“何か”が音をたてて引きちぎれた。一瞬にして頭に血が上り、体中がマグマの様に熱くなる。
「お前ッ!「化け物にでも出会ったのかい?」・・・ッ?!!」
停止した。立ち上がり、男性の首元を掴みにかかろうとした智は男性の一言によってその動きを完全に停止したのだ。
限界まで見開いた眼にだらしなく半開きになった口。顔はピクリともせず、姿勢も右手が男性の首数センチ前で止まっている。
「な・・・何を言って「その反応・・・まさか正解?」・・・ッ!!」
搾り出すような震えた声。恐怖と気味悪さが混ざり合った声音の智に、男性はニヤリと微笑む。
その全てを見透かしたかのような微笑み。薄暗い森の中、男は不気味な存在感をかもし出しながら佇んでいた。
「はぁ・・・はぁ・・・くッ・・・な、何なんだよあんたは・・・ッ!」
目の前に身動き一つせずただ佇んでいる男性に向かって智は荒い声を上げる。
肉体的疲労と精神的疲労が既にピークを迎えつつある彼、疲れている体を無理やり起こし目前の男を睨みつけた。
限界であることを悟られないようにしようと言う一種のやせ我慢だ。
「何って・・・・たんなるホストだよ・・・」
少しだけ目を見開く男性、しかしすぐに先ほどのニヤリとした笑みを浮かべた。
「そういう君は・・・どうしたの? そんなに息を上げてさ?」
近くの木に寄りかかり、腕組みをしながら男は聞いてくる。そのときの男の表情は、帽子によって智からは見ることが出来ない。
「そんなの・・・あんたには関係ないだろ」
額から流れ落ちる汗を拭いながら智は不機嫌を隠そうともしない口調で突っぱねる。
「“関係ない”・・・ねぇ。 ねぇ、君。 お兄さんから一つ忠告をしよう」
「?」
さっきまでの御茶らけた口調から一変、真剣な口調で話し始めた男。
智はそんな男を訝しげに見つめるが、口調や雰囲気が変わった事に知らず知らずの内に聞き入ってしまう。
「早い所、“主人の所”に帰ったほうがいい。 でないと・・・」
「でないと?」
男の言葉を鸚鵡返しで彼は問うた。

――君、死んじゃうよ。

「・・・?!!」
「じゃ、忠告はしたからね」
一拍あけて男の口から出た言葉に、智の体に鳥肌が立つ。一歩二歩後ずさる彼に、男は興味をなくしたのかクルリと背を向けた。


スタスタと歩き去る男、その背中をただジッと見つめ続ける智は思い出したかのように、男とは反対方向へと足を向ける。
そもそも、こんな所で時間を食うわけにはいかない。自分は一刻でも早くあの館から、この森から出たいのだから。

そう思い、走り出そうとした瞬間。

「やぁ、おはよう。 どうした? 結構長い散歩だったじゃないか」
「なッ・・・ぁ?!」

無造作に生い茂る森の景色が一瞬にして、清潔感溢れる食堂の景色へと様変わりした。
視界を埋め尽くすほどの緑の光景は、白い壁と木製の長テーブルや窓といった空間的景色に変わり。
雑草や土の感触でいっぱいだった裸足は、床に綺麗に敷かれたカーペットの柔らかい感触になっている。
そして何より、智の目の前。数メートル先、イスに腰掛け朝食を取りつつ此方に気軽そうに声を掛けてくる一人の少女。
そのあり得ない光景に、今度こそ彼は絶句してしまう。

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